メモリアルパークにて
イナエ


遠い海鳴りに揺れる芝の浜に
過去を彫りつけて並ぶ墓石 
刻まれた家名は
未来から押し寄せる期(とき)の飛沫に
輪郭を失い昔話の中へ透けていく

たとえば 祖父の掲げた鬼灯の
赤光に浮かぶ人たち
記憶が熟れて
爆ぜる西瓜の滴る血に濡れ
一時 艶やかな光を放つとしても
鉄を鍛えた遠い先祖の腕の
造りあげた仕込み杖は
桜木の鞘と共に枯れ朽ちて
懐古する女の 下げた魚籠の編み目に
透けて見えるのは
先祖自慢のことばだけ

あるいは
祖母の供えた赤茄子の
船腹を見つめて
潜る珊瑚の海で息が爆ぜ
消えた肺 
生み出す幻や
炎に弾ける若者の
背が吹き上げる蜃気楼が
残り香を放ち
夕空に踊るとしても
やがて 
幼子の持つ線香花火に
ぴしぴし砕け
名前だけ石に残して消えていく


自由詩 メモリアルパークにて Copyright イナエ 2014-03-16 14:23:29
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