水の紀
千波 一也





流されて、
すべもなく流されて、
どこへも、
どこの岸にも、
まったく辿り着いて、
などいない、
そことここ、
あちらとこちら、
まったく区別など、
できていない、



執拗な問いかけは
これ以上のなにを
流すことになるのだろう
ひとの命の
幾つを奪うことになるのだろう



時間は経過、
しただろう確かに、
外野として、
取り囲むその内側の、
時間ならば、
確かに経過しただろう、



凪を祈る言葉がある
いや
凪を祈る形式がある
容易な時刻と
容易ならぬ時刻とが
かなしく重なってしまうようにして
凪もまた重なるのだろう
重なることに疑問はないだろう



水の車は、
水を失った日に、
風のつかいとなって、
回り、
直せる、
それが火だとて、
味方につけて、
回り、
直せる、



ひとの心を描くなら
遠浅が良い
欠落が
欠落として
渇かないから
水は
満ちていられる
満ちているふうにして
いられる



過ぎたことに、
もどってはならない、
もどっては、
いけない、
そんなこと叶わない、
すべてのひとに、
叶うことがあるならば、
言葉はいらない、
全くいらない、



まだまだともいえる
とっくにともいえる
どちらにせよ
癒しが求められる
優しい
めぐみの
礎としての
羊水のような
温かい始まりが求められる



行方など、
人に尋ねてもわからない、
火の力でも、
風の力でも、
陽の力でも、
行方はわからない、
火でも風でもないものならば、
なにを尋ねるべきか、
それすら、
わからない、



明けない夜はない
それは確かにそうだけど
暮れない日もない
明けては暮れて
救われては
沈み
浮かんでは
閉じ
けっして
一色に染まるばかりが
答ではなかろうに

たやすく歌う
繰り返し繰り返し
もてはやすように歌う



いつか、
聞こえてしまう、
いつか、
聞かれてしまう、
いつか、
聞かせてしまう、
どれも、
いつか、
流されてしまう、
あるいは、
流れのなかで、
おそろしい形となって、
知らぬ間に、
なしとげる、



幸せになりたいと思う
それだけは
誤りようのない
事実であると信じたい
だれも皆
幸せになりたいと思う
お互いさまでも
お陰さまでも
すべてを
ひっくるめたうえで
幸せになりたいと思う



命からがら、
水に恩あるものたちが、
水によって、
干からびてしまった日、
おそらく、
良いも悪いもなく、
おそらく、
良いも悪いもあり、
さらなる渇望が、
しらぬ渇望を、
生んでゆく、



さようならと言おう
きっと
約束の代わりとして
辛辣ならざる真実として
迎えの日を祝うための
身支度として
さようならと言おう
どの
陸地でもいい
海のえがける場所ならば
どの地図上でもいい
その身を
削らずにはおけない温度で
さようならと言おう



音、
ひとつひとつの、
すべての細やかさを覆うようにして、
音が、
始まろうとしている、
奏でるものも、
奏でられるものも、
生きている、
から、










自由詩 水の紀 Copyright 千波 一也 2014-03-15 22:45:47
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【水歌連珠】