夜鳴り
由木名緒美

不協和音の刻まれた頬
顔皮一枚外隔てた胸裏で美言を弄する君
聴診器を押し当てるよう、その薄い胸板に耳をつけて
くぐもった真意を推し量る私は
酔いの千鳥足で不慣れなステップに追いすがる為
君の胸への姑息な回避に終始する鼠

駆逐された無音の蜂の巣にミラーボールが光を分裂させ
幾千の瞳孔を輝かせる
小さな巣穴から覗いただけでは
その眼球の悲哀がわからない
君の涙を齧っては
むなしく夜を駆けずり回る

祖母から教えられた秘薬は
もう君を眠らせるに充分な量なのに
夜空は擂り鉢状の胃袋を裏返して
いよいよ深みゆくばかり

理性を求め過ぎてはいけないの
思慮深い戯言を吐き捨て
圧倒的な真空に身を委ねる
差し伸べる手は火照る骨の囁きに行き着き
浮上することのない夜が
あなたとの間の撞着に拍車を掛け
息を止めて祈っては、朝の冷気に魂を癒す

分断された精神 その裾を繋いで
あなたとの口付けが肉薄されゆく様を
最初の絵筆にさらい、まっさらなキャンバスに落とした


自由詩 夜鳴り Copyright 由木名緒美 2014-03-14 23:59:24
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