束の間の街
ヨルノテガム





 捨て猫あいさつしない
(こニャニャちは なんて言わないニャ)

 ビール缶から雨水こぼれた
(つらつら ぽたん )

 扇風機の首が折れる
(ブウーン ゴキッ )

 夜が地べたを這っている
(のっぷり のっぷり )

 高層ホテルが墓石
(しーん しーん ちーん )

 夜中が地下を新たに作り出す
(ともだち増えるよ モグラさん )

 抑揚のない笛が流れた


 信号機は砂時計のように
 意味なく顔色を変え
 環状線で巡る都会の動脈は
 ひとつの四角い小部屋の末端で
 ひっそりと静脈へ入れ替わる
 蝉の羽音が火薬をこぼし
 花火を空へと打ち上げた


 猫紳士は二本足で会釈し
(ボンジュールボンソワ )

 浮浪者がビールのプシュっと開ける音に溺れ死ぬ
(いやあ今夜は三度も死んじまったぁ )

 夜空を覆いつくす扇風機の羽が回り
(ブウーン 気もちのよい風 )

 月がパラパラ漫画に跳ねて跳んだ
(こっちへおいでよ )

 こんな夜はもういらない
 こんな夜ばかりじゃ
(だけど夜を愛す 見えないものが見えてくるから )

 若者の人影は木々の森へと隠れ消える
(朝、わたしはわたしのままなのだろうか )



 昼の環状線で眠る冷たい電車の空席に

 暗い若者は よこ笛を吹いて 無視され続けた



 抑揚のない


 線のような


 音を吹いた



(彼はきっと


 とびきりの


 流れ星を


 見たんだワ )













自由詩 束の間の街 Copyright ヨルノテガム 2014-03-11 21:42:48
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