束の間の街
ヨルノテガム
捨て猫あいさつしない
(こニャニャちは なんて言わないニャ)
ビール缶から雨水こぼれた
(つらつら ぽたん )
扇風機の首が折れる
(ブウーン ゴキッ )
夜が地べたを這っている
(のっぷり のっぷり )
高層ホテルが墓石
(しーん しーん ちーん )
夜中が地下を新たに作り出す
(ともだち増えるよ モグラさん )
抑揚のない笛が流れた
信号機は砂時計のように
意味なく顔色を変え
環状線で巡る都会の動脈は
ひとつの四角い小部屋の末端で
ひっそりと静脈へ入れ替わる
蝉の羽音が火薬をこぼし
花火を空へと打ち上げた
猫紳士は二本足で会釈し
(ボンジュールボンソワ )
浮浪者がビールのプシュっと開ける音に溺れ死ぬ
(いやあ今夜は三度も死んじまったぁ )
夜空を覆いつくす扇風機の羽が回り
(ブウーン 気もちのよい風 )
月がパラパラ漫画に跳ねて跳んだ
(こっちへおいでよ )
こんな夜はもういらない
こんな夜ばかりじゃ
(だけど夜を愛す 見えないものが見えてくるから )
若者の人影は木々の森へと隠れ消える
(朝、わたしはわたしのままなのだろうか )
昼の環状線で眠る冷たい電車の空席に
暗い若者は よこ笛を吹いて 無視され続けた
抑揚のない
線のような
音を吹いた
(彼はきっと
とびきりの
流れ星を
見たんだワ )