降りしきる時の肖像
ハァモニィベル

時が降りしきっていた

黄昏の公園にはベンチが一つあり
そこにずっと座る
一人の老人の頭の上にも
白く降りつもる


飛んできた蛍が、
燃え尽きてその膝で眠ったときにも 
 ずっと・・・・・・

その胸の蛹から孵った蝶が、
静かに羽を扇ぐいまも 
 ずっと・・・・・・


PATA―PA―TA―TATA、PATA―TA・・・PA・・
蝶よ
 その羽搏きで 
  たのむから
  詩を詠わないでくれ

パタパタと
   心に
    風を起こさないでくれ


PATA―TTTTTTTTT・・・
PAPAPPPPPP・・・
若き日  
本当の愉しみは知らずに過ぎ

PATA―PA―TA―
―TA・・・PA・・
消え残る月をはるか空に見つめて 
われは
今 ここにいる


足下には
  まだ
    横たわり
     枯れぬままの 花束

耳には
  まだ
    体内で響く・・・
       赤い運河の叫び


 己れから本当の愉しみ/歓びを
  奪われ続けた者が座っていた


 己れから本当の愉しみ/歓びを
  奪い続けてきた者が座っていた


 一人の老人が座っていた


消え残る月を見つめて
胸に蝶が羽搏く 
独りの老人が座る公園 

時が降りしきる公園がある


公園の近くて遠い所には――

沢山ある角ばった街並み
雑踏が倦んざりする程散乱した道を
抜け出せぬ若い真昼が
幾千幾万の窓から吸い出されては
飛来し 炸裂している
雑踏の膨張と縮小を繰り返し鼓動する
無人島がある


無人島の遠くて近い所には――

飼い主は自転車に跨がり
その紐を握りしめて
その横に
無理やり連れだされた
老犬が舌を出して散歩しつづける

 その道の横にある
廃品の山のてっぺんで
空を見上げて死んでいる扇風機
 風に
襟を立てて過ぎる横顔は
泣きもしないで
信号機に命じられた通りに歩き出す

図書館の隅で整列して瞑る全集のような人たちの町がある



自由詩 降りしきる時の肖像 Copyright ハァモニィベル 2014-03-10 16:43:21
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