自然の戦争
小川 葉



近寄りすぎると
津波がくる
熊が出る
ベルリンの
壁をどれだけ高くしても
津波がきた
熊がきた
甘い人間社会に憧れて
津波も熊も
街を混乱させたので
人間は壁をより高くした
高くすれば
津波も熊もこないと思った
壁はどこまでも高く伸びていく
その薄い壁の向こうに
変わらない自然がある
ことを人間はみてみぬふりをして
壁はどんどん高くなる
国境である
文化の違い
人間と自然との差異
それを無視して
壁を高くすれば
自然の恵みを都合よく
人間の恵みにできる大事業
それがあるから
壁はもっともっと高くしなければならない
人間の発展を否定したら
自然もおしまいだ
そんな勝手な人間中心の
街づくりとはなんなのか
美しい海があり
美しい海で暮らし
美しい海で暮らす人間の
暮らしがある
その美しい海の人間の生活が
防潮堤を今よりさらに高くすることで
美しさが損なわれるという
そのノスタルジーとは
人間中心の
勝手な美意識ではなかったのか
ここからこちらがわにはこないでね
という
津波の到達点が
今回の震災により示された
また
ここからこちらがわにはこないでね
という
熊が出没する分岐点が
山にも示されている
海に街がある
山にも街がある
しかし自然が自然であるために
死守しなければならない
国境というものもあるのだ
人間の戦争というものも
互いの国境を侵害したことにより
侵害したものに対して
戦争というものは
はじまるものだからだ


自由詩 自然の戦争 Copyright 小川 葉 2014-03-09 22:13:30
notebook Home 戻る  過去 未来