昼過ぎの真須美
吉岡ペペロ
玉ねぎを切っていた
パートの時間まであと少ししかなかった
カレーが煮立っている
そこに彼女はさらに玉ねぎをつき足そうとしていた
炊事場の小窓をあけて換気した
出掛けるまえ火は止めないといけないからつき足した玉ねぎは半生になるだろう
しかし彼女の手はやむことがなかった
ざくざくといつもの要領で玉ねぎを切っていた
一馬のためにパートの帰りトンカツを買おう
半生の玉ねぎのカレーとそれは合うかもしれない
咲にはサラダを買おう
タイムサービスの値札の貼ってないやつを買おう
乙一には、
すると彼女には問いが湧いてきた
なんで今日こんなに玉ねぎを切っているのか
自問自答した瞬間答えは目のまえにあった
玉ねぎのように白くなりたかった
なみだが流れでている
あんなことするんじゃなかったとは思わなかった
からだでもいのちでもないどこかにカレーの染みのようなものがスタンプされてしまった
それを消すには玉ねぎを切るしかないのだった
玉ねぎがカレーに熔けだすのを想像する
出掛ける直前まで火はとめないでおこう
パートまでもう時間はなかった
玉ねぎを切る手はやまなかった
切りながら嗚咽とともに両目からなみだが流れでてとまらなかった
ざくざくと音をたてながら真須美はまな板のうえに白を殖やしていった
殖やしては白を煮立ったカレーのうえにかぶせていった