傾滴路 Ⅳ
木立 悟
ひとつの飛沫
つむるまぶた
水をもとめて
はばたく痛み
取り残された秋をつまみ
影は鉱の空をあおぐ
こぼし こぼれ
何も残らぬ手のひらに
鉄の光と音が降る
白に現われ 白に消え
川は曲がり かがやきを昇る
氷の上に残された椅子
待ちつづけながら 流されてゆく
夜の声が口のなかに
冬の昼を流し込む
灯が尽きるところまで
羽のかたちの暗がりはつづく
水たまりを焼く火に雨は降り
空を海へ近づけてゆく
明るく揺らぐ 人の居ない家
川を流れる 人の居ない家
朽ちてゆく樹と流木が交わり
森に青空を産み捨てた
ひとり育ち
水彩を選び
誰にも分からぬ涙を描いた
海へゆく路 わだかまる風
押されることを 待っている背
何も無い場所を囲む柵
ひとつの影にひらかれる
明るく荒んだ坂の夜に
片目をひらくことさえ忘れて
浪 曇 雨 蒼
霧の終わりまで 霧をたどる