物語
……とある蛙
物語に参加している僕は
確かに主人公ではない。
何かが主人公の物語に参加しているようで
何が主人公なのかとんと分からない。
夕闇の迫った黒い森の周辺を
朱色の夕焼けを背景にした
黒い鴉の鳴き声を聞きながら
彷徨(うろつ)いている主人公でもない僕
森の入り口には
黄色の首輪をした黒猫が一匹
口を半分開けて薄笑いしている
臭い 臭い
彼の口臭は臭い
おまえどこを漁ってきたんだ
と嘴太(はしぶと)鴉がステップを踏みながら
黒猫の頭の天辺(てっぺん)を突っつく
僕は猫に同情し、鴉を追っ払おうと
石を鴉の眼に向かって投げた
鴉はひょいひょいステップを踏みながら石を避け
僕を左眼、左の眼でで睨む
意気地のない僕は言い訳を鴉にしようとする。
そうだ、猫を狙って石を投げたんだ
臭い息の猫を狙って石を投げたんだ。
黒猫はやせ細っていて
捨てられた生ゴミしか食べていないのを知りながら
情けない僕は猫を莫迦にした言葉を吐いている
鴉は本当に酷薄な左眼をしていて
縮みあがった僕は猫を裏切ってしまった
そのとき二度と黒い森には近づくまいと決心したのだが、
結局自分も生ゴミを漁っている
僕も口臭の臭い黒猫に変わろうとしている。
今朝も嘴太鴉に追い回されて
うろうろうろうろ彷徨いて
言う必要のない言い訳を
聴いてもしない鴉に向かって喚いている。
もうそんな日がいつから続いているか
覚えていない。