もうひとつの童話
ハァモニィベル
街を歩くと背中ばかりだという
マッチ売りの少女が死んでいる通りを過ぎ
崩壊したまま放置された幸福の王子の像の前で待ち合わせしてる
みにくいアヒルの子のように悄気てるお前が愛しい
通りは狼とデート中の楽しそうな赤ずきんばかり
忠告など、頭巾に隠れた耳には遠くて
時折、オオカミだぞ!と叫ぶ少年の声は虚しい
路地で迷子の、グレてるグレーテルがお菓子の家に誘われて眼を輝かしてる
家で寝息をたてる眠り姫は とくに朝が眠いらしい
朝食も弁当も作らず、夜帰宅してもやはり眠ったままだ
一本足のブリキの兵隊と踊り子のような俺たちだったのに
起そうとして接吻したとき、玉手箱から現実が少し漏れてきた
(変だぞ、まだ俺は独身なのに・・・)
その時、人魚姫が王子様を刺して逃走中だというニュースが街に流れた
死後3日が経過し、犯人の足跡はないという
手配写真が、どこか無口な初恋の女に似ているようで
切なさがあぶくのように沸きあがる
あんまり悲惨すぎる世界に これはどうやら
夢らしいなと察知して、眼を開けようとした、その途端、
突然こどもが横の路地から飛び出して、
俺を指差し、「あっ裸だ!裸だ!」と叫んだ(なんて夢なんだ)
おいおい、誤解しないでくれ 勿論これは、
北風と太陽のしわざに決まってる