もうひとつの童話
ハァモニィベル

街を歩くと背中ばかりだという
マッチ売りの少女が死んでいる通りを過ぎ
崩壊したまま放置された幸福の王子の像の前で待ち合わせしてる
みにくいアヒルの子のように悄気しょげてるお前がいとおしい

通りは狼とデート中の楽しそうな赤ずきんばかり
忠告など、頭巾に隠れた耳には遠くて
時折、オオカミだぞ!と叫ぶ少年の声は虚しい
路地で迷子の、グレてるグレーテルがお菓子の家に誘われて眼を輝かしてる

家で寝息をたてる眠り姫は とくに朝が眠いらしい
朝食も弁当も作らず、夜帰宅してもやはり眠ったままだ
一本足のブリキの兵隊と踊り子のような俺たちだったのに
起そうとして接吻したとき、玉手箱から現実が少し漏れてきた
(変だぞ、まだ俺は独身なのに・・・)

その時、人魚姫が王子様を刺して逃走中だというニュースが街に流れた
死後3日が経過し、犯人の足跡はないという
手配写真が、どこか無口な初恋の女に似ているようで
切なさがあぶくのように沸きあがる

あんまり悲惨すぎる世界に これはどうやら
夢らしいなと察知して、眼を開けようとした、その途端、

突然こどもが横の路地から飛び出して、
俺を指差し、「あっ裸だ!裸だ!」と叫んだ(なんて夢なんだ)
おいおい、誤解しないでくれ 勿論これは、
北風と太陽のしわざに決まってる





自由詩 もうひとつの童話 Copyright ハァモニィベル 2014-03-01 05:46:06
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