回帰
由木名緒美
あなたの眼差しを入り口にして抱かれる
薄青色の抱擁はとても温かい
奥へと進めば進むほど
現世は力強い鼓動の音に打ち消され
忘我の境地へと潜り込む
何も食べず、何も必要としなくていい
あなたの心臓にぴたりと寄り添い
胎児のように身を丸めれば
神の愛という幻の概念が
従順な依存心を貪欲に食べ尽くしていく
外界は一切のお喋りをやめ
息を殺して夜明けの一波を待つ
微震をあやす揺り籠は
小さなうねりを伴って、私の重みを降下させはじめた
吐き出される世界をあらかじめ予知していたかのように
私は母神の連なりを回帰していく
守られつつ、また養分を吸い上げる寄宿者でもあったあなたと
互いの必然を備えて別れるのだ
裸を撫でる風は冷たいだろう
見渡しても、あなたの足跡はすでに無く、
ただ幼い言語と声帯で
遠のいた人々の名を呼ぼう
それはいつか、こだまのようにこの胸に返ってくる
破り捨てた偽りの証が空に煽られ発火する
一つの生成を終え、微笑みは苦痛の先導者となり
あの幕を上げれば変わらない命がの灯が奉ってあるのか
いやはての祈りに、瞼を下ろした