メーピスカリャー
末下りょう
夕ごはんの買い物帰りにママンが仔猫を拾ってきた
パッパは余計なもの拾ってくるなよと言った
ぼくはびっくりして、触ったりした
今日から兄弟だよって
ママンが言った
少し震えながら
鳴いてる、
浮きでた背骨
細くて
逆立った毛
足音がない
肉球はどっかの国の
フルーツみたい
薄い耳をめくると
パチンッて
もどる
猫を抱いて寝ると夢にやわらかな毛がはえるって聞いてたからくっついてみたけど、すぐ逃げてママンのそばにいってしまう
メーピスカリャー、ぼくは
そう呼んだ
メーピスカリャーは
ぼくを引っ掻いて
噛みついて、
みみず腫れや
腕に穴をあけて
ぼくは
蹴飛ばして、首を掴んで
どっかにぶん投げる
猫じゃらしで
遊んで
裏庭で競争して 、
一緒に
木に登る
少し大きくなると、虫や鼠や雀を
くわえてきた
たくさんの蜂と
闘ってる姿を
見たこともある
メーピスカリャーは 、
帰りが遅い日は
怪我をして
帰ってきた
ママンは、その傷を
いつも讃えた
この子は生まれながらの戦士だと 、
あなたも強くなるのよって
ぼくを抱きしめた
(猫のあいだの猫は、ジャングルの中での忍び足の影だ。猫は人間を信頼している。でも猫のことは信じない。それはぼくらよりも猫のことをよく知っているからだ)
メーピスカリャーが
どっかの猫と
毛を舐め合いながら、
裏庭で寝そべって
眠そうに
収縮する身体は
自由の縮図 、
王家の末裔
木洩れ日の
化身
ある小雨の夜 、網戸をガリガリする音で目を覚まして、
階段を降りると
メーピスカリャーが
外に出ていった
ぼくは裸足のまま
パジャマで
後をつけた
雨はぬるくて、芝生が足の裏にささった
メーピスカリャーは薄暗い裏庭の真ん中で、ふと立ち止まり
振り向いた
、
太古からの牙をみせたメーピスカリャーがなにを言ったのか 、
ぼくには分からなくて
拳を握った
その夜を最後に
メーピスカリャーは
帰ってこなかった
ぼくは毎日、駐車場の車の下に寝そべったり
裏庭の木の上に座って
帰りを待ったけど、
いつまでたっても
あの光る眼は
何処にも見あたらなかった
メーピスカリャーの尻尾の先がもしこの世界の果てだったら
ぼくはいつか追いついて
思いっきり
振り回してやりたいのに