「カスタネットを叩く小さな手が、乾いた音を空間に弾かせて赤と青のあわいにある星を見つけようとする。白眼は青みがかっていて世界中の秘密を引き連れてまだ秘密を作ろうとしている。カーテンの裾に広がるまだら模様の彩光が、知らない街のジオラマになる。きみんちはどこ。」
手渡された箱の中にはなにもないと
はやく教えてもらいたかったのかもしれないし
死ぬまで知りたくなかったかもしれないようなこと、
早く家に帰りたいがために
わたしが君の大事なものを盗んだと
名乗り出た嘘を辿る指が湿り落ちる
かけ離れていく季節の辻褄をあわせるように風が吹き抜ける
最新型の高校生には目にもとまらない、瞬間を、奪い取る
(わたしたちはただ一瞬だけ、世界を照らしながら生まれ、
世界に反射されて両眼を潰し、涙を流して光ることをやめた、
ひずみに吸い込まれていく残光が、白衣に映しだされて、
物語の終結が手を差し伸べる、
)
想像の中で何度も君を刺した、
かたちを失っても君は喪われなかった、
あわい、と口にして気が済むような詩人が嫌いだと、言え
オノマトペの鍵盤を乱暴に、弾け
できるかぎり卑猥な音楽を、夢想しろ
/存在しない国の/言語の/少年の名前が耳に残る/((フィノシカ))/フィノシカ、君は確か一年の殆どを雪の中で過ごす土地で産まれて/皮膚は薄く白く/緑に近い金髪の巻き毛の少年/雪原には君の足跡しかない/フィノシカ、/何も映らない群青の瞳/わたしと等しいものは白眼くらいしかないんだ/いいえそれだって、/誰かが手で時間をかけて編んだ重いニットに乾燥した雪が張り付いて溶けないでいる/フィノシカ、/君は死にに行く/これはわたしの負け試合/
君は傍観することをやめた/だから雪の中でどれだけ熱を保てるか/賭けをすると決めた/まだ君の精神は未熟だから/それを愚かだと/思うことが愚かなのだと、君は、/
今朝、裏庭に繋がれたまま犬は倒れた/痙攣する犬を抱いて/青白い靴音が白夜を締め付ける/犬の熱い息が君をあたためる/フィノシカ、もうどこにも帰れないよ///
世界中の毛布が濡れて、跡形もなく蒸発する夜
わたしたちは星座から一等星を見失う
何億年もかけた痙攣を終えて
無音の中で爆発するのは
冗談みたいに烈しい老衰
放課後のグラウンドで金属バットが硬球を撥ね返す
運動部の掛け声を飛び越えた先で
右手で掻き毟るようにして、性器を
境界を喪ってしまえば
裂けた茎の断面は正しくうるおい、
衣擦れて皮膚に落ちる冠水、円い穴に蓋をして生き埋めになる
だれか大切な友達の死を忘れている気がする、(でも友達なんていないょ?)
グランドピアノの舌を転がり落ちて、スカートの襞に潜めた砂なり、涎なり、青春と呼ばれるものを存分に股の間で汚した、舐めとっても洗われなかった、乳白色のくるしみ、たいせつなともだちにさよなら、600光年も遠くで死んでいったともだち、
別れの手を振るわたしのひかりが
君のくらやみに吸い取られて
なにも変わらない
(記憶の中で教室は、いつもわたしだけがいなくて、
(あのこたちはとても楽しそうだから、
(記憶にもならない閉じたドアの向こうで、
(わたしが入ることもできずに蹲っているよ、
(かまわない、
(つづけて
願うならどこでも
立つ地点は君の薔薇色の頬だ
架空の少年が死に続けようと影を踏むかぎり
真新しい光線が必ずわたしの瞼を貫く
いま、下腹部になにもないことを宿したよ、
朝だよ、(おやすみなさい)