乾いた現実
ヒヤシンス
時空を超えてある街に出る。
星のない夜だったが、街中は人工色のネオンで煌びやかに輝いている。
立ち並ぶクラブの扉の向こう側から活気に満ちた音楽が流れてくる。
アルコール臭の漂う中、道端に散乱している煙草の吸殻と誰かの吐瀉物だけが現実を感じさせる。
それは乾いた現実だ。
クラブの中に入ると、透けた人々が渦巻いて、澱んだ空気の演出に一役買っている。
それぞれのテーブルには、そこに座る人々の社会的立場に応じた疑惑が積まれている。
その疑惑を溶かしてゆくかのような蒸気がステージ上の演奏者達から放たれる。
彼らの熱い演奏のおかげで、人々は理屈抜きに一時の優越感に浸るのだ。
それこそ乾いた現実だ。
現実の中で私はリー・モーガンを聴いている。
現実というものは驚くほどいつも乾いている。
そこに人々の湿った感情が加わって私は思わず涙が出てしまう。
あなたはそんな私を見るなりたまらず苦笑するだろう。
しばらく時は静かに去って、いつしか私の記憶も薄れてゆくだろう。
人々の姿は透けてゆき、私自身も消えてゆくだろう。
であるならば私はこれからも託さず描いてゆくだろう。
この乾いた現実の中で。