二十歳(はたち)のエチュード
草野大悟2

私の言葉を 少しも疑わない母さんに
嘘をついてまで 行きたかった宮崎
強い日射しとフェニックスのある街
ゆったりと落ちついた街
5時間 汽車にゆられて
たどりついたあなたが住んでいる街
行ってよかった。 ほんとうに。
どうしてもっと早くふんぎりをつけられなかったのだろう。

あなたの住んでいる所は
神宮駅の近く。
いつも 朝早く散歩するという神宮の森の近く。
少しあるくと平和台、埴輪公園

ほんこつ よお来たね。
 よお 来てくれたね。
何度も あなたが言ったこの言葉が
何よりもうれしかった。

背の高いガラスのコップで
コーヒーを 飲み

わたしの
いちばん
大切に
したい
ことば

あなたが好きだと
口に出したことはありません。
あなたの目の前で
そう言ったことは
まだ一度もありません。
それは
てれくさいのと
このことばを大切にしたいからです。
ほんとうに
大切なことばなのです。

<平和台>
夕陽を見に行きました。
カンナとサルビアの燃えるような赤と
古墳に駆け登って見た
夕陽とが すっかり 溶け合っておりました。
大淀川は とうとうと流れておりました。
ゆったりとした街並みに灯りがともり始めるころ
夕ごはんのホットドックをほうばりながら
長い坂を降りてゆきました。

<埴輪公園>
あなたの手のぬくもり
優しく笑う瞳
まるでわたしたちは羽根でもはえたような軽い足どりで
歩いたのです。

女や舟や兵士や馬の
形をした埴輪の
渋い土色に
心安まる思い
だったのです。

白鳥のいる池に遊び
遠い木々のうっすらとした影を
楽しみながら。

夢でも見ているのではないかと
思ったものです。

ここは 確かに 宮崎なんだ。
兄ちゃんの住む街なんだ。
私は 風に乗って ここまで
やって来たんだ。

燃えるカンナの心を持って。


2本あったバナナの皮を
ゆっくり むいて
食べたのです。
とろりと広がる甘さに
うきうきした気持ちを託して
いっしょに飲み込んでしまったのです。

ギターをつまびきながら
歌ったあの歌は 海の歌
青く澄んだ二人の海の歌

兄ちゃんの先輩の尾形さん
住吉に住む生粋の宮崎人
40分もかかって自転車で通って来るという人
九大の大学院に落ちたという人
兄ちゃんが いちばん甘えているという人
はずかしそうな伏し目がちの彼も
気のいい素朴な感じのする人でした。
宮崎の太陽が好きな人でしょう。

あの時
「おさとう いくつ入れましょうか」
と言えば良かったのです。
つっけんどんな美知子
もっと もっと
女らしくなりたい
美知子

<Mateにて>
`カリブ海`の色はコバルトブルー
チラチラ輝くグラスの中には
チェリーが一個
「乾杯!!」
カチッと音を出して
ピリリと震えたグラスを
唇につけると
カリブ海の青い香りが
広がって行った。

明日になれば
これくらい青い海が見られる。
兄ちゃんに好きな
住吉の青く広がる海が
見られる。
胸の中は アルコールに
燃えて 炎となった。

スクリュードライバーとエッグノッグ
酔いが早くて
頭がずきずきと痛んだ。
最後のエッグノッグは
兄ちゃんに半分飲んでもらった。
ボクシング部の眼のきれいな人と会った。

兄ちゃんの部屋に帰りついたのは
10時過ぎだったか11時近かったか定かではない。
寒かった。
兄ちゃんのばあちゃんがつくってくれたという綿入れを
着せてくれた。
ほんのりあったかい紺色の綿入れ。

兄ちゃん
あの時ほど
あなたの眼がきれいだったことはない。
わたしは信じていい。
あなたのすべてを信じていい
そう思ったのです。
わたしのあなたが
そこにいた
美しい眼を持った
わたしのあなたが。
他のだれのものでもないあなたが
わたしの胸の中にいた。

ラジオの音楽が聞こえていたような気もする。
月の光があったような気もする。

「みちこ、裸になってくれ」
あなたのかすかな声が
聞こえたような気もする。
朱色の裸電球が
いつの間にか ぼんやりと
光っていたような気もする。

あなたの前で裸になること
完全に裸になること
私は 何の抵抗もなく
かくも自然なおおらかな気持ちで
裸になれたことをうれしいと思う。
あれでよかった。
あれでよかった。

あなたの燃える手にくるまれて
わたしの心も燃える 燃える。
何のわだかまりもなく
美しく澄んだ心を
あなたの前に
晒せたことを
うれしい思う。

燃える胸を合わせ
かたく抱き合った
わたしたち。
たくましい あなたに
何度も くちづけしたわたし
小さな乳房に
そっと手を置くあなた。
そっとくちづけしたあなた。
息のとぎれそうになる程
強く抱き合っても
くちづけしても
その後に残るのは何ともしれない空虚感
でも
わたしたちは
わたしたちの創造する生命を
おろそかにしてはならない。
いくら小さな生命だとしても
それを踏みにじるようなことだけはしたくない。

ツーンと澄んだ明るい朝
程よい疲労感を残して
目を覚ましたのは7時になろうとするその頃
朝のコーヒー
冷たい水で洗った顔は
朝の明るさがよく似合う。
キラキラ眩しい朝の光に
透き通る白い歯
キッとひきしまった輝く瞳

朝の香りのする
地下の冷たさを運んで来た水をくんで
ポットでお湯をわかし
あなたはひまわりのマグ
わたしは背の高いグラス
お砂糖は
あなたが2つ
わたしが1つ
さっととかして飲む朝のコーヒー
冷気にふるえながら
湯気たちのぼる朝のコーヒー
ゆらゆらゆれる
こうばしい香りただよう朝のコーヒー
喉をうるおし
朝の光の色を
運んでくれた
あたたかいコーヒー

ぷるん と身震いして
朝の光は
わずかに色づいた木の葉の上
朝露の溶けやらぬ
しっとり濡れた林の道を
歩いてゆく。
澄んだ大空へ
飛び立つ光

こうしている私たちが
何と不思議に思われたことか。

二人して撮った写真も
新しいつくりの博物館も
手にとってみたユーカリの葉も
ふっと 虹色のかけらになって
壊れてしまうのではないかと思うほど
不思議だったのです。
二人がここにいるということが・・・
二人がこうしているということが・・・。

どんぶり一杯のみそ汁
ハムエッグとマヨネーズのかかったキャベツ
ノリのついたおにぎり

江平2丁目だったかしら
あのバス停
30分ほど 濃いブルーのバスに乗って
住吉の海を見に行きました。
日向の海を
見に行きました。
バナナを持って。

コスモスの花を髪に飾ってくれた
あなた。
ピンクのコスモスを旅の印に飾ってくれた
あなた。

かすかに聞こえる海鳴り
果てしなく広がる林の向こうに
姿を現している日向の海

靴の中にはいってくる乾いた砂など気にもしないで
海に向かって走る二人
強い風にもつれ合う髪
あのコスモスの匂う髪
肩くんで海に向かって立つ二人
躍る心をくちずさみ
わたしを抱き上げるあなた。
わたしの重さのためと
砂のもろさのために
尻もちをついた二人

海ーーーーーーー
 海ーーーーーーー
  海ーーーーーーー

遠くを船が進んでゆく。
群れをなした鳥が水面を飛ぶ。
11月とはいえ
かなり強い日射しの中で
ジャンケンをして遊んだ二人
浪のかなでる子守歌を聞きながら
船かげで眠った二人
さらさらと音をたてて流れてゆく銀の砂

潮風の中での
しょっぱい口づけ

乾いた唇を潤す潮の香り
うっすらと日焼けした顔には
今も潮の香りがする。

不思議な二人
海の その青さを映したまま
その激しさに驚いたまま
見つめ合う二人
Spriteは妖精
青い海の色の妖精
爽やかな海の妖精






自由詩 二十歳(はたち)のエチュード Copyright 草野大悟2 2014-02-24 01:19:52
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