笹舟
そらの珊瑚

早瀬のそばの竹やぶに
住んでおりましたので
笹舟を流しては遊んだものです
手を離すと同時に
それは勢いよく
旅立っていきました
赤い橋をくぐるまでは
なんとか目で追うことができましたが
それから先を見ることはできませんでした
不安定な面持ちだけれども
案外沈まないで
多くのものたちが
海までたどりついたことと思います
きっと海には数え切れないほどの
わたしの笹舟が
今も解体されずに浮かんでいることでしょう
舟には何も乗せなかったつもりでしたが
或いは
とても大切なものを乗せていたのかもしれません

私は引越し
早瀬は昔話になってしまいました
新しい川は
いったいどちらに向いて
流れているのかさえもわからないような
もしかしたら
悠久のなかで
川という名前を
手放してしまったのかもしれないほど
実にゆるやかすぎる形状で
笹舟をふたたび流してみようという気持ちは
すっかり消え失せてしまったのでございます

竹の花を咲かせたあと
竹やぶという生き物は
根こそぎ
ええ、それはもうきれいさっぱり
消滅してしまったということです


自由詩 笹舟 Copyright そらの珊瑚 2014-02-23 10:22:58
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