或る死神の話
愛心

初めまして、こんばんは。



或る死神の話



えーと、踏み台にロープ。まあ、もう梁に通してらっしゃる。
先端わっかにして。まあまあ、首吊り自殺ですか。
ここ最近多いんですよねぇ。
この時間帯ですから、他にもあと何件かやってそうですねぇ。
たく、なんで状況迄、報告しなきゃならないんでしょ。面倒くさいったらありゃしない。

…おや?
あんた、もしかしてあたくしが見えるんですか。
わっか掴んだまんま、驚いた顔をしてらっしゃる。

あらあらなんということでしょうねぇ。
仕事を早く終わらせたくて、ちっとばかし早く来すぎたかしらねぇ。

ちょっと! あんまりばたばたしないでくださいな。
深夜2時回ってるんですよ? ほら、何処に掛けるのか知りませんが、電話だって御迷惑です。戻して戻して。

はい、お水でも飲んで、深呼吸なさってくださいよ。
大丈夫、大丈夫。あたくし泥棒でもなんでもありません。
金目の物なんかないでしょうよ、こんなボロアパートじゃあ。はい、落ち着いて落ち着いて。

さて、落ち着きましたかねぇ。
それにしても、女の癖に悲鳴一つ上げないとはなんとまあ、全く、面白いお方です。

あたくしはね、所謂死神なんですよ。
あんた、自殺するんでしょ? 首吊り。
あんまりお薦めしないけどねぇ。色んなもん垂れ流すから汚いし、顔も醜く歪むしねぇ。
あんた、きれーなお顔してるから、勿体ないと思いますよ。
ああ、と。話が逸れましたねぇ。
自殺した人間は天国にも地獄にも逝けないんでねぇ、死神としてその魂を雇うことになってるんですよ、えぇ。
あたくしはあんたの魂を狩りに来たんです、お分かりですか?

理解なさったなら話が早い。賢い女は好きですよ。
さ、邪魔をして申し訳ありませんでした。首なり何なり吊ってください。
ほら、踏み台昇って、わっかに頭入れて、ほら。

…え?
あたくしが死神になった理由?
そんなことどうでも良いでしょうよ、ほら、早く。

早く!
…ああ、もう。

話したら死んでくださいよ?

…あたくしはねぇ、恋人を生かす為に死んだんですよ。
昔好きだった女がね、病気になりましてね。金やら何やら入りようになりまして、あたくしも寝る暇も惜しんで働きましたよ。
初めて愛した女でしたからねぇ、そんで、初めて愛してくれた女でしたよ。
病気になって幾月か経ったある日、医者がねぇ、あたくしの臓器なら合うと言っているのを聞きましてねぇ。
もう、察してくれるでしょう?

あんたのその心臓は、昔のあたくしのそれですよ。

…なんであんたが、泣いてるんですかねぇ。
あら、踏み台仕舞っちゃうんですか? おや、ロープも外して、それじゃ死ねないですよ?
首吊り以外にするんですか? 違う?

…そうですか。
それじゃぁ、あたくしは失礼しますね。

頑張って生きてくださいよ、さようなら。





また会えて嬉しかった。


自由詩 或る死神の話 Copyright 愛心 2014-02-23 02:14:26
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