勧善懲悪
Lucy

初めての学芸会は
サルカニ合戦の
蟹の役だった
いとこのよっちゃんは
猿だった

元の話は
硬い青柿をなげつけられて
つぶれた蟹の卵から
子蟹が出てきて
助太刀を得てみごとに
親の仇を討つ
と言うお話らしいが

小学校の演劇用の脚本では
蟹は死ななくてもよくて

よっちゃんが「これでもくらえ」と言って
柿を力一杯投げつけるふりをした後で
わたしは「えーんえーん痛いよう」
と泣きまねをしながら
舞台のそでにはけていくと
担任のはまだて先生が
本番の時にだけ
私の頭に真っ白な包帯を
ぐるぐる巻いてくれた

それから栗だの蜂だの
臼だのといった
得体の知れない仲間が出てきて
みんなして寄ってたかって
私のために
悪いよっちゃんを
徹底的に懲らしめるという
痛快なストーリーが展開した

むろん小学生向けの脚本だから
本来はやけどをしたりハチに刺されたり
水に溺れたり
あげくのはてには
糞まみれになって
ほうほうのていで逃げようとしたところを
落ちてきた臼に潰されて
見事に退治されると言うお話らしいが
そこまでいかないうちに
よッちゃんは降参して
「どうか命だけは助けてください
もう悪いことはしませんから」
と謝って
めでたしめでたしと幕を閉じた

今考えるとひどい話だ
数の力にものをいわせて
暴力沙汰で追い込まれ
反省して心を入れ替える奴など
どこにいると言うのだろう

それにしても
今も鮮やかに思い出すのは
先生が巻いてくれた
白い包帯
私の潔白を証明し
善なる被害者である事を 
保証してくれる包帯に
うっとりしていたあの時の私





自由詩 勧善懲悪 Copyright Lucy 2014-02-22 12:25:14
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