絶滅のための夜
末下りょう
暗い宇宙のフカクから 、つめたくやわらかな雪は
降り積もる
目線と
平行するように 、
コンクリイトの
壁を這う
白の
ヤモ
リ
星のような手足と三日月のような尻尾
空洞としての
巨大な
瞳孔を
縦に
開閉させて 、
街灯の光を溶かそうとする白雪の
構成を解読した
濡れた
壁面に
吸盤を 、うまく
使い
反転し
て
そこから
冷静さを酷く持て余した
路面の
靴跡に
、
鉛直の視線を
離す
鉛直
世界
の
無限の片隅に 、希薄な血色の、肩を
あずけ
不完全な
直角三角形の
斜辺となり
水死体のような言葉をカタリ
彗星を
真似る
硬くこわばった白い首筋に 白のヤモリは 、移り
擬態すると
物思いに
耽る
果てしない闇を
見上げれば
すべては
、
静かな衝突から
静かに
静かに
始められ
絶滅のための夜が更ける
三日月のような
尻尾だけを
残して