椀のなかの尻
手乗川文鳥

後ろから浸り、百日紅に槍、吾の坊の棒もしなり、左、見遣り依頼、落雷の方に猿とモヒカンが卑猥に絡まりY・Y・Yの字、袋小路に去り、然りとて頭髪を剥ぎ、貼り、裸足から抜いてもぎもがき、解ぎ、炎の仄かの放り解ぎ、紛れもあり塗れ、揉まれ鹿尻、つるてとした尻々。その尻皮を剥ぎ、皮を浸した真水が真緑。紛れもなく真緑。迸り網走、筋の張った尻が走り今治、非理と非理が虚空を有して吾の嬢の黒髪真緑に。
黒い数列の群、やがて灰たる蕗の薹に紫の唇が重なる。つかまれ、しずかな夜の端に。とまれ、ざわめく暗い眼。
吐く息、吸う息、緻密に詰め込まれた瓶詰めの雪が、くるしんで降る、くるしんで降る、くるしんでしんで降る雪に麻痺する、去る坊と嬢が両手で手を振る、去る爺と婆が眼を瞑る、去る父と母が手を取る、手を取ろうとして、消える、崩れ落ちる階段に縋る、がらんどうのお堂で一人うずくまる。暗黙。
沈丁花けぶる、くすぶる煙管に紅が差して煙が陽光に傾く、悠長な睫毛が濡れる、踏み交わして伸びた影の縁に踊る娘らが沢山いる。あちこちに緑色にくるくる回って腕を広げて。ほつれて。
穿つ肺臓に祈祷を通し、尻皮を剥かれた鹿が裏山で鳴く、清廉と呼ばれた家は潰れ、自慰を知らずに育まれ、疎まれ、やがて炸裂する反言、反言、滲み月面が楕円、白々しく吐く嘘は可憐。
よるべない緑に娘ら降る。
よるべない畔に娘ら溢れる。
よるべない滅びに娘ら舞う。
よるべない人は娘ら抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。抱く。
裸の娘らが雪の中倒れる。
白い肌の娘らが雪に埋もれる。
娘らの尻に降る白い雪。冷えた尻。凍る尻。血の気の失せた雪がうたう。
卵も虫も眠り落ちていく夜に永久凍土とほのめかす。
圧縮された塵の中で安らかに潰える、無人の廃工場地帯に灯る火、手のひらの椀に収まる災禍を見つめる眼に別離が揺れる。遠雷に燃える森と西日に染まる産毛にしがみついた吾子の指が力絶えて落下する、あぁかぁさぁたぁなぁはぁまぁやぁらぁわぁ、を、ん。復唱して、二度と分かれない性別を手にしたら、もう一度お前を授かると決めた、防ぎきれない光線を浴びて腐食を殺そう、攻めては守る反響に外耳から内耳へ蝶の舌が伸びていく。
乳を踏み踏み跨がれて越えていく海峡に沈む肋、股を割り腹を裂き絡み合い咲き繁る野薔薇、禁じて閉じた蔵に息を潜めて眠る子を、葬ることなく鳥居は歪み、母、転じて私は歩み、止まることなく形を亡くして忘れたことさえ忘れる、



自由詩 椀のなかの尻 Copyright 手乗川文鳥 2014-02-22 03:26:04
notebook Home 戻る