蟹と人
ただのみきや

蟹は
前を向きながら横へ進むのか
横を向きながら前へ進むのか
蟹のからだの構造上
顔のある方が前だから
蟹は前を向きながら横へ進んでいるのだ
が しかし
蟹も何か目的を持って進んでいる
餌を 異性を 住処を求めて
それこそ蟹にとっての前進
蟹は横を向きながら前へ進んでいるとも言えるのだ
では はたして
蟹に後退はあるのだろうか
蟹が前を向きながら横へ進むのなら
その時点で後ろに進むことは無い(前もだが)
蟹が横を向きながら前へ進むのなら
それが前進なのか後退なのか
蟹にしかわからない
たとえ天敵に追われ逃げていたとしても
それが後退なのか
自己保存のための前進なのか
蟹にもわからない
いつだって蟹はわかっちゃいない
ハサミと甲羅の小さな本能だ
では人にとっての前 前進とは
今 目の前にあることを
精いっぱい楽しみ生きることなのか
あるいは困難に耐え理想や目標へ向かい
一歩ずつ近づいて行くことなのか
どちらかを選べというのもおかしなことで
どちらも程良く欲しいものだ
だから切羽詰って逃げ出しても
いつか勝利するための戦略的撤退
生き延びるための前進と言いたい
ほとんどアタマ使わない蟹だって
カニみそは美味いのだから
人も蟹のように
横を向きながら前へ進んだり
前を向きながら横へ進んだり
見てごらん
あのテーブルの若いカップル
時の小舟は軽やかに未来へ向かって白波を切る
――なのに行く先を見ようともしないで
 互いに見つめあったまま
「このまま時間が止まればいい」なんて想っている
だけどそのうち目が覚めて
先に待ち受けている現実を正面から見つめると
右往 左往 
なんとか先延ばしにしようと
アワを食うは隠れるは
蟹よりみそは多いけど
蟹ほど上手くはいかないようで
とりあえず自己保存のための
「前進」 というところか

 
           《蟹と人:2014年1月22日》






自由詩 蟹と人 Copyright ただのみきや 2014-02-21 22:42:09
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