「うたくじら〜男性合唱、ギターと鳴り物のために〜」雑考③
赤青黄

「うたくじら〜男性合唱、ギターと鳴り物のために〜」雑考?


曲は作者曰く
~響きの遠近として、母体的な音響を発する六人の独唱群(黒子的な~響きの島~)~から男性合唱「うたくじら」は始まる。
イメージとしては

カラコロ
う―――――
う―― ―
う― ― ―
― ― ―
― ― ―
― ― ―

みたいな感じで、まず「響きの島」一番手としてテノールの男性が「カラコロ」鳴るパーカッションと同時に高音域のU母音(鯨の声に一番近いんだろうな)を鳴らす。その後音程を山なりに下げていき、ある程度音程が下がったら、息継ぎも兼ねて、最初に出した音程から発声し直す。二番手は図のように一番手より少し遅れて、また一番より少し低い音程のU母音を発声し、同様に音程を下げて行く。三番手以下も同じようにする。途中、様々なパーカッションがなったり、「シュッシュツ」みたいな音が入ったりする。

さて、上にも書いたように若林先生は六人の独唱群を「響きの遠近として、母体的な音響を発する黒子的な~響きの島~」としておいている。また鯨に対して若林先生は

~この海に還っていった哺乳類の先達に、深いノスタルジーを感ぜずにはいられない。~

とライナーノーツの中で語っていることから「母体的な音響=母なる海へ還っていく鯨の鳴き声」「黒子的な~響きの島~=辺りに何もない広大な海の中で歌う鯨の群れ」だと容易に推測できる。

また、若林先生が選んだ編んだテキストの中には

ウウウウウウウウ。
ウウウウ。
イイイイイイイイ。
イイイイ。

……
(草野心平:「Berng-Fantasy」その3より)
がある。冒頭の鯨の鳴き声は多分ここから来てるんだろうな。重なりあう様々な音階の男声の音色は、水中で音を交信し合う鯨の姿を想起させてくれる。多分、あの沈んでいく音は海の底に沈んでいく「鳴き声」を表しているのだろう。

この曲を聞くたびに、人間の声ってのはホントに何でも出来るなぁと僕は思ってしまう。

ヘッドホンの中には、あのグレートジャーニーの紀行文でみた、波一つ立たない、静かなベーリング海のような静謐な世界が作り上げられていた。殆ど肉声のみによって。


散文(批評随筆小説等) 「うたくじら〜男性合唱、ギターと鳴り物のために〜」雑考③ Copyright 赤青黄 2014-02-21 05:37:43
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