真夜中、殺意のレコード
ホロウ・シカエルボク


おまえの憤りを愛せよ
おまえの憤りを愛せよ
路地裏に放置された
何十年も前の三輪車みたいな
おまえの憤りを
観念的な錆には痒みを覚えるだろう
みんなそうして憎しみを忘れまいとするんだ
眠れぬ夜は窓の外で苔生していく
テレビゲームのバグのようにチラチラと繁殖するそれは
サンプリング・コラージュを施された日にちのバラバラな悲鳴のように思える
寝床にはいつも置き去りにしてきた昨日が先に寝そべっている
オー、ふてぶてしい野郎だ、俺はそいつの髪の毛を掴み、寝床から引き摺り出して剥き出しの床に叩きつける、砕ける音がしてくにゃりとなるまで
痙攣しているそいつの隣でようやく寝床に潜り込むものの、血の臭いが、血の臭いが酷くて眠れないので、そいつを窓からたたき出して、洗剤を使って丁寧に拭いた、時計の針が淡々と移動を続けている中で
そうしてようやく眠りについたが夢の中ではバグが繁殖していた、狂ったように死んでは生まれ、死んでは生まれて、果てしのない繁殖を続けていた、おかげで言葉すらままならなかった、そんな夢の中を生きた、目覚めるまでにたいした時間はかからなかった
仰向けのまま目を見開き、薄暗い天井を凝視した、そこにはバグは見当たらなかった、かわりになにか執拗な視線があり、根源を探したがまるで見当がつかなかった、気づかないふりをして眠るべきだろうか?だがもし視線の主がそれを待っていたとしたら?
明かりをつけて音楽でも流せよと身体は警告を発していた、しかしなぜかそれを聞く気にはなれず、暗闇の中で感覚を尖らせた
それは現実的な空間にはないものなのだ、現実的な空間にはない、しいて言うなら絶対的な幽霊のような存在だった、でもなぜ?どんな理由があって?
俺はそいつの髪の毛を掴んで、床に叩きつけるさまを想像してみた、そいつの血が床を満たし、忌々しい臭いをさせるさまを、そいつの感覚に訴えるようにひたすら頭の中で繰り返した
しばらくそうしていたら気配は無くなっていた、疎通の出来ないやつだと思われたのかもしれない、まあいい、ただ眠りたいだけなのだから
目を閉じると悲鳴が聞こえた、窓の外で繁殖し続けている連中の悲鳴だった、それは繁殖と同じタイミングで、内耳を引っ掻くようなトーンで繰り返された、目を開いてため息をついた、またしても妨げられるのだ
気づくと隣にはぐちゃぐちゃな野郎が寝転んでいて、上体を起こしてあるのがないのか判らない目で俺のことを見ていた、産業廃棄物にこびりついたヘドロみたいな臭いがした、俺は殺意を覚えた、殺意を覚えるのには充分すぎた、俺はそいつの顔に噛みつき、歯で顔をむしってやった、耐え難い臭いにもどしそうになったがつけこまれそうで堪えた
そいつは悲鳴を上げられないらしく、両手で顔を押さえてしばらくもがいていたが、やがてもやのように消えた
気配が消え、臭いも失せたが、眠る気もしなくなっていた、気分を変えようと便所で小便をして、寝床に帰ってくると置き去られた昨日が横になっていた
確実に殺さなければならない、俺はハンマーを手に取り、重さを充分に確かめてからそいつの頭に振り下ろした、剥き出しの後頭部を一撃だ、電気ショックを食らったようにそいつは一度激しく跳ねた、そして震えながら息絶えた、俺は再びそいつを窓から放り出し、次のやつを待った、おそらくはあの視線の正体なのだろう、ぐちゃぐちゃなやつを
現れたそいつを何度も殴打した、生身にハンマーが食い込む感触は官能的ですらあった、ただでさえぐちゃぐちゃなそいつの顔は輪をかけて崩れ…いや、いつの間にかそこには、標準的な後頭部があった、そしてその後頭部にはどこか見覚えがあり、半ば確信しながら裏返すと、それはやはり俺自身であり、脳天を砕かれて死んでいた
ああ、死んでしまった、俺は絶望しながら眠った、もう夢も悲鳴もなかった、目覚めたときにあらゆるものを確かめた、すべてのものがすべての日常を生きていた、俺が殺したものたちは俺に寄り添うようにそこに居たが、臭いも感触もないただの投映された映像のようなものだった、俺は起き出し、支度をして外に出たが、そいつらはどこにもついてくることはなかった。




自由詩 真夜中、殺意のレコード Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-02-20 23:01:20
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