ししゃも
服部 剛

熱燗の、おちょこの横の
受け皿に
五匹のししゃもが銀の腹を並べ
口を開いて、反っている

いつか何処かで観たような
あれはピカソの絵だったろうか?
絶望を突き抜けてしまった人が
空を仰いだ裸身のままに
ど・ど・ど、と、大地を走りゆく
あの狂った顔にも、重なるような

時間ときの停まった、表情で
生の最後の、絶唱が
今宵は何故か、聴こえるのだ。
赤ら顔した、独りの僕に。

檸檬の欠片をぎゅぅ…と、搾る。 
まずは手前の一匹の、頭をむし
数えきれない卵等の詰まった
銀の腹を、口に入れた。  





 


自由詩 ししゃも Copyright 服部 剛 2014-02-20 19:54:15
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