あしだか
春日線香
あしだかというひょろ長いおんながうちにきて
しばらくここに置いてくださいという
これといってなにもお返しはできませんけれど
お掃除くらいはさせていただきます
そういって冷蔵庫の裏に陣取って
かれこれ数ヶ月にもなる
たまに姿を見かけるだけで邪魔にもならず
彼女の働きで家は以前より清潔になった
なにより 虫の類がまったく消えてしまった
手のかからないいい女中を見つけたものだと
みんなしてほくほく顔で喜んでいる
縫い物が得意だというので針を持たせると
丈夫で美しい着物を仕立ててくれる
最近はその着物を売りに出して
ちょっとした財産が得られたほどだ
かくもめざましい働きを前にして
彼女の正体なんて詮索しても仕方ない
好物のごきぶりをむしゃむしゃ食べるくらい
ほんのささいな瑕疵でしかないのだ