ある退職届に書かれていた文章
Neutral
ねえもういやなのよ
脂の匂いでたるんだ男どもの顔と
画面の中のかわいらしいみんなを見比べる毎日は
世の中をこんな風にしたのは一体誰
いくら泡のような微笑みで満ちていても
私をぶつ手の感触が本物でも
そんなもの現実とは認めたくないわ
だってとっくにもう お母さんはどこかに行ってしまったから
おならをがまんする為 尻に込めた力
緑色の糞になって背中を這い登り脳髄へと染み込んでいく
それは羞恥心 責任感 焦燥感 劣等感
かつて「気遣い」と呼んでいたものに
私は目も当てられなくなる程支配されてしまっていた
金の海を駆け回る者たちは
それが糞の海である事に気づいていない
練れば練るほど固くなる負の感情の塊に足をつっこみ
その中を彼らは必死に歩いている
靴だけ綺麗に保ちながら
後戻りが許されるのは 轍ができた歩幅の分だけよ
そんなに生きる喜びが欲しいなら
交差点の真ん中にしゃがみ込んで
課せられたノルマの数字でも叫びながらクソしてるのがお似合いなのよ
クソ野郎 クソ野郎 クソ野郎
私がキャリアとして得たものは職歴ではなく
目を閉じると浮かんでくる嫌な奴の顔と声だった
咳を止めたいのにどうしてタバコは止めないの
あんたたちはそういう矛盾に満ちた存在であるべきだけど
ねえもう考えるのも面倒なのよ
だってみんなそうやってニートになってくじゃん
人の幸せを許せないのが社会なのよ と
なんとなく ふうん と言ってあいつは納得したけど
自分勝手な理屈だとは知っていた
だけど怖くてそれ以上は言えないから
口ではなく文章にしたの
そうよ 一身上の都合による退職 またの名を自己都合
あんたたちも覚えときなさい
責任の対義語こそが 都合 だという事を
そしてそれこそが 社会に不平不満の尽きない私たちを表すのに
一番適切な言葉なのよ