蠅
山人
崩落したコンクリート構造物には異型鉄筋が露出し錆びついている
圧縮されたすべてのものがついに限界を迎え
一瞬にして広大な大気圏の天辺に分厚い雲が浮かび
ゆがんだ紫色の空間から雨が降り出した
得体の知れない有害な気体と油脂が雨に混じり
いたるところに雨は降りしきる
多くの無機物は熱を帯び
たたかれた雨により冷却され蒸気を上げている
雨が上がるとコンクリートの熱気があたりに充満し
空気がゆがみ陽炎が立ちのぼる
太陽はただ照り続け容赦が無い
やがて空は次第に赤く染まり
夕暮れの時が来る
何かが不意に爆ぜる奇妙な音があちこちから聞こえてくる
何も知らない星星は闇雲に光り輝き、宇宙は平和の坩堝を造形している
風が吹く
風によって薄い紙のようなものがひらつき、かすかな物音が不穏に音鳴る
星星は風によってかき消され、朝方また雨が降り出した
さび付いた異型鉄筋は腐食がすすみ
やがて強風により剥がれて風に飛ばされてゆく
頑なな強度を保持したもの
あらゆるものが劣化を辿り風化していた
とある日の昼下がり
腐食した異型鉄筋の先に一匹の蝿が留まって羽根を休めていた
何かを祈るように手をすり合わせ
ほんの数秒そこで向きを変えた後
不意に飛び去った
蝿の向かう先々にはおびただしい菌類が蔓延り
風にあおられた胞子が煙となって空へと立ち上がっていた