山人

崩落したコンクリート構造物には異型鉄筋が露出し錆びついている
圧縮されたすべてのものがついに限界を迎え
一瞬にして広大な大気圏の天辺に分厚い雲が浮かび
ゆがんだ紫色の空間から雨が降り出した
得体の知れない有害な気体と油脂が雨に混じり
いたるところに雨は降りしきる
多くの無機物は熱を帯び
たたかれた雨により冷却され蒸気を上げている
雨が上がるとコンクリートの熱気があたりに充満し
空気がゆがみ陽炎が立ちのぼる
太陽はただ照り続け容赦が無い
やがて空は次第に赤く染まり
夕暮れの時が来る
何かが不意に爆ぜる奇妙な音があちこちから聞こえてくる
何も知らない星星は闇雲に光り輝き、宇宙は平和の坩堝を造形している
風が吹く
風によって薄い紙のようなものがひらつき、かすかな物音が不穏に音鳴る
星星は風によってかき消され、朝方また雨が降り出した
さび付いた異型鉄筋は腐食がすすみ
やがて強風により剥がれて風に飛ばされてゆく
頑なな強度を保持したもの
あらゆるものが劣化を辿り風化していた
とある日の昼下がり
腐食した異型鉄筋の先に一匹の蝿が留まって羽根を休めていた
何かを祈るように手をすり合わせ
ほんの数秒そこで向きを変えた後
不意に飛び去った
蝿の向かう先々にはおびただしい菌類が蔓延り
風にあおられた胞子が煙となって空へと立ち上がっていた





自由詩Copyright 山人 2014-02-19 17:06:24
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