花ぬすびと
石瀬琳々

ある日窓から花を投げた
あのひとが受け取ってくちびるに寄せてから
あのひとが好きになった 恋をした
みずいろの花 むらさきの花 そしてあかい花
あのひとはすべて受け取ってそっと胸にしまった
花ぬすびとのように


あのひとは何も言わなかった
互いの瞳のおくを遠く見つめるだけで
ふたりのあいだを雨が降り雲が流れ風が吹いた
思いを 胸にあるはずの幾千もの言葉を
あのひとはすべて受け取ってそっと胸にしまった
異邦人のように


ある日窓から小鳥を放した
きみどりの鳥 ももいろの鳥 そしてしろい鳥 
晴れた空に鳥たちがハートのかたちを描いて
あのひとはほほえんでただ両手をひろげた
わたしは窓を開けて飛んでゆく
あのひとの腕のなかへ
あのひとのこころのなかへまっすぐに






自由詩 花ぬすびと Copyright 石瀬琳々 2014-02-19 13:19:14
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