傾滴路 Ⅱ
木立 悟





かがやく曇と
黙りこむ曇のはざまに置かれたひとつの皿に
荒れた虹の音が降り
非対称の笑みを咲かせる


人工の水 人工の光
すぎるものは皆 幽霊のように視線をそらし
何も見ぬまま見つめながら
陰と跡を行き来する


葉と葉と花が壁に書く文字
風が海へ曳いてゆく文字
ゆるやかな坂道を
上る午後と下る午後がすれちがう


水が生まれ
同じ重さの音が生まれ
ひるがえるもの たなびくものを光に晒し
どこまでも何かを動かしてゆく


重なることのない六つの色が
直ぐに進む背を染める
曇は曇を捨ててゆく
うたはうたを置いてゆく


牙の並ぶ口に手を入れ
指の幾つかは失われる
明るい冬の
星めぐる色


糸の痛み 風の先端
触れては消える 向こう岸の景
まばたきの羽が刻むのは
確かで不確かな行方ばかり


低い曇が鳴らす鐘
残されたうた
残された指
午後を海へ連れてゆく

   


























自由詩 傾滴路 Ⅱ Copyright 木立 悟 2014-02-17 14:36:13
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