詩人と雪掻き
服部 剛
大雪の翌日
退院間近の幼い息子を迎えに行けるように
シャベルを握り、腰を据え、無心になって
門前に降りつもる雪の塊を、掬って、投げた。
玄関から顔を出した、姉さん女房は
刳り貫かれた地面の広がりに
目を丸くして「父親なのねぇ…」と、呟いた。
家に入った女房が
夕餉の支度を始める頃――
雪道にしゃがんだ、僕は
スコップを手に
見知らぬ人が歩けるように
ひとすじの細い道を
何処までも、掘り進む
しゃくり、しゃくり、と
無心で雪を、除けながら
見知らぬ日々の通行人を思いつつ――
詩をつくることと、雪掻きは
何処か似ている予感を胸に
スコップを手にした、僕は
いつのまにか陽の暮れていた
雪明りの世界を
しゃくり、しゃくり、と掘り進む