レム≠ロム
ホロウ・シカエルボク

くたくたに疲れているのに、眠りはなかなか君の部屋を訪れてはくれない。一日中凍え、平坦なオシログラフのようなイデオロギーのなかで木偶人形ごっこをし続けて、おまけにいま窓の外では辛気臭い雨が錆びたトタン壁で忌々しい音を立てている…眠りが約束されたことがここ最近あっただろうか?軽薄な口約束程度のものならあった気がする、君はそんなものあてにしていなかった、世界が君をあてにしていないのと同じように。


音を消したテレビの中でアドルフ・ヒトラーがアジテーションしている。「真実の定義は時代によりけりだ」と君は衝動的にアテレコしてみる。そして、なんてくだらないことを口走ってしまったのだろうと激しく後悔する。そんなこと今じゃ誰もわざわざ口に出したりなんかしない。真実について語ることがイノセントだなんてスタイルはゲーテの時代ででもなければ誰にも通じない。最もゲーテはそんなもの鼻で笑うだろうけれど。真実とは、と君はさっきの失態を塗り潰そうと考え込む。


真実とは、あらゆるイデオロギーが複雑に絡み合ったものだ。つまり、それがどういうものであるかなんてどこのどんなやつにも言い表すことなんか出来ないのが本当だ。確信なんか決して持つべきじゃない、と君は考える。確信は間違った確立への入口だ、それは視野のほとんどを塗り潰し、信念に見合ったもの以外はないのも同然の扱いにしてしまう。確信しているというスタンスを提示すること、それは、自分が愚直であると宣言して回るようなものだ。君は部屋の鍵を確かめにいく。君はいつも強迫観念的にそれを確かめる、散漫な日など五分おきに何度も確かめてしまったりする、半ば無意識でそうしているから繰り返してしまう。君は時々そんな仕草の後で絶望して立ち尽くしてしまう。


時計の針は日付変更線を優雅に飛び越えた、でも眠りたいはずの君はまだ少しも解放されてはいない。パソコンのオーディオプレイヤーでは懐かしいロック・ソングがリピートされ続けている。神経症的なエイト・ビートの連続の中で、もしかしたら君は深い沼の中に沈んで行くような夢を見るだろう。




自由詩 レム≠ロム Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-02-14 07:50:18
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