ディドのはなし
フユナ
僕は生まれ変わったらディドになりたい
というとディドはベッドの枕元に座ったまま
そのままぴくりともしないで笑うようにした。困った笑いだ。
ディドは半ズボンをはいている。それだけはわかる。
ディドはみずいろだ。それも絶対だと思う。
ディドの一日は午前六時に始まる
枕元のステンドグラスを磨いて、それからジョギングに出る
角のうちから牛乳を貰ってくる
九時には僕の部屋に戻ってマーヒーを読む
メリーゴーランドのところでアコーディオンを弾くまねをする。
それから数時間不明。
午後二時にはシュークリームを作る
学校から帰る僕のために。
ディドのシュークリームはカスタードと別次元に粉砂糖が入っていて、
食べると砂糖がしゅわしゅわする。
それからもう一度、ステンドグラスを磨く。
ということはなくて
ディドはずっと枕元に座っている。でもマーヒーの所だけ本当。
ディドの食べ物は不明。
でも主食は枕に落ちている僕の髪の毛。
ディドがそれを食べるときには、
茶色がまるでたんぽぽの眩しい色になる。
でも、髪が食べ物じゃないんだって。だから不明。
ばくみたいだ、というと、ばく?と首をかしげた。ぴくりともしないで。
ディドはばくを知らない。
ディドがするのは、歌をうたうことだけ。
ステンドグラスはしょうがないので、僕が磨く。
ディドの歌はたぶんずうっと昔のものだ。
ドがドでなかったくらい。
僕は生まれ変わったらディドになりたいな、と言うと
ディドはぴくりともしないで困って笑って
気が向くと、歌をうたってくれる
ぴくりともしないで。
それでなんとなく、
僕はディドにはなれないんだと思う。
絶対に。完璧に。
ディドはディド
ディドでしかないんだ、と
ディドは最初に僕に自己紹介した。でもそこじゃないんだって、ディドは言う。ぴくりともしないで。
でもそこじゃないんだ。
これが、僕のうちにいるディドのはなし。