◎受胎
由木名緒美

混み合った雑踏を、お腹を庇いながらゆっくりと進む
おくるみに包まれた雛の存在に人々が気付いたら
群集は我先にと手を伸ばすだろう

雛は知を持たず、それでいて神秘に通じる鍵を持つので
その血は膨大な金を産む
もしも手懐けることが出来たなら
この街最大の見世物となることだろう

注意深くそぞろ歩きをしているが
たまに雛の存在を忘れて狂乱に血迷う時がある
そんな時でさえ、腹越しに伝わってくる温もりは純化された依拠心で私の心を落ち着かせ、決して乱れることはないのだった

雛は待っている
数え切れない具現の白昼夢が叫ぶ中
何を自らの終の住処とするべきか

愚かしさを踏み潰しながら
人々は驚くほどそれを渇望している
朝の清浄な風にシャツをはためかせながら
その下では熔岩質の粘液が脇腹を垂れるにまかせ
拭っても消せない跡をこしらえては
皆が皆、そうであるのに
それこそが孤独な病だと信じている

お腹をさすり 雛の鳴き声に耳を澄ませる
お前、どうして私を選んできたの?
小さな嘴が腹をついばむ
「欲深い人間が必要だった。それでも赦されたいと思っているような。そうすれば、必死で私の信頼心にしがみ付いてくるでしょう?」

雛が訳ありげに羽を震わせた
私は肩をすくめて返事をする
脇腹をどろり、と粘液が流れた
私の卵はいつ孵るのだろうか
ほどよく罪深い処女が産まれるとよいのだけど


自由詩 ◎受胎 Copyright 由木名緒美 2014-02-13 23:34:22
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