シグレタ
赤青黄
シグレタ
3月に降り始めた雨が、三年たった今もやまない。ザァザァが続く。土は流れることに疲れたのか、ずっと海の底で静かに暮らしている。大陸は削れない岩の塊、所々にある隙間は、大きく大きい。人が入れるかはいれないくらいちいさいの間違い?でも大概の生き物は入れるから多分大きいんだ。防水ケータイなんて今時流行らないか。三年前まで皆使ってたのにね?ね!あらゆる研究だって今は廃れてるし、砂漠がなくなる代わりに植物達は空に浮かんだ。だれのなんの助けもいらないから、人間たちは今もなお落ち葉を探している。そうそう今の季節は秋、紅葉が美しい、と噂の季節らしいよ!
父が縁側に腰かけている。ここは風のない町だから、窓を開け放っても、雨は上から下に落ていくだけなのでほっといても構わない。私は、父の隣に座るとそのシワだらけの左手に上に右手を重ねた。父の皮膚はあまりいい匂いがしない。昨日家族でみたサザエさんを思い出していたみたいで、目には涙の跡がついていた。息を荒げていたから、重ねていた手で背中をさすってあげたのだけれど、どうにかなるわけでもなかった。そうだねああそうだねなんて紅葉は美しいんだろう、また皆で見に行こうねっていうしかなくて、僕が生まれた日に植えた栗の木が実ることは、もうないのに。
カレンダーの絵は毎日変わるのに、時計の鐘は雨に邪魔されて鳴らない。人々は家の中で愛を語らう、安いカプセルを食べて腹を満たす。洗濯物は乾かない。歌は響かず、涙は海の水、枯れた草のご遺体も、濡れて力尽きた動物達の腐乱した肉体も、ああ水に溶けていく、星が見えなくなった日からもう三年も経つことに誰も気づかない、
ゴミみたいなあらゆる雑踏の破片が暗黒の流れの内に身を任せ、灰色の炎に焼かれ、跡形もなく崩れ去った、砂の町、そう、大陸棚に積もる隕石によって造られた地層の町の中で、消えることのない生活の焔(ほむら)が、水の底で静かに揺れ続けている。今も。