産まれた理由は還るべきところへ向かう
ホロウ・シカエルボク





優しい乖離を抱きしめている空白の午前、見開いた眼の充血はすでに失われたかけがえのないものに照準を合わせ、ショート気味の脳細胞が認識するものは片手で足りる理由だけだった、窓の外には希望を騙る太陽の光、まんまと騙されて今を生きる民衆の安易な昂ぶり、直感と行動の間の配線が狂っているので朝からずっと手の甲を噛んでいた、慣れれば慣れるほど犬歯が食い込んで血まみれだ、俺から零れたものが俺に還る、血の味はいつでも饒舌だ、そこにあるものだけを語るのが真実だろ、余計な感想なんかいちいちくっつけてんじゃない、変えられないものに躍起になってなにをはぐらかそうとしているんだい、お前に出来るのはコラージュが関の山さ、そう、ようやくやることを思いついた、右手を犬歯から引き剥がし、消毒液をふんだんに振り掛けてガーゼを包帯で巻きつける、みるみる血が滲んでもう一度繰り返す、なにもかも申し分なくストックがある、止まるまで繰り返してかまわない、消毒液の匂いが部屋を埋め尽くし、それは組み伏される生命の叫びを思い起こさせる、生まれるべきものが死んでいく文明、治癒のための清潔に化膿するべきものたちが死んでいく、傷はもう傷と呼べない、痛みを語るにはもうそれは洗浄され過ぎている、高さを増した太陽が何事か叫んでいる、たとえば聖書に記されてあるような愚直さを、たとえば救済を求めて信仰に手を伸ばす惰弱さを、すでに洗浄されているのにずきずきと痛む、その痛みは福音よりずっと率直だろう、俺は痛みを撫でる、自身の愚かさを愛おしく思い、理路整然とした世界に唾を吐く、よく出来た理屈で魂を飼い殺せるわけがない、理屈を通そうとするのは臆病者のすることさ、意味も無意味も益も害もなにもかも良しとして進めないなら脳味噌だけで生きればいい、お前にはその権利がある、俺はたとえそれを持っていても断固拒否する、それは俺のスピードを奪うものだ、違うというのなら限界まで振り切って見せてくれ、いつも俺が試みているようにそれをやって見せてくれ、納得ずくの現象が面白く思えるわけがない、見世物はいかがわしいから面白いんだ、そうだぜ、舞台に立つのならその覚悟を持ってくれ、つまらなさを真剣さで弁護するなんて白けさせるにもほどがある、発信だろうが受信だろうが果てしない場所で着地したい、能書きを垂れる暇があるのなら武装を解いて強行突破しなよ、本物の血が流れていなければ誰も飲み込んでなんかくれないぜ、知的なお遊びがしたいなら金を貯めて、ぶくぶくに太った高級な脂肪にまみれてからにするんだな、動けないやつらにしかそれをする権利はない、なあ、お前が欲しいのは知恵の輪を悩まずに解く程度の魂なのか?すまないけどそれなら俺に話しかけないでくれないか、俺がやりたいのはもっと油断がならないようなことなんだ、誤魔化しなしで駆け抜けるのさ、出来る限りの弾をぶち込むのさ、なおかつ狙いをきっちりとつけて、撃つべきもの撃ち、やるべきことをやり、使うべきものをすべて使い、その成果と代償を偽ることなく差し出して見せるのさ、ねえ、それがパフォーマンスってもんじゃないか?美味かろうが不味かろうが関係ないのさ、そこにそれがあるということが大事なことになればいいんだ、ねえ、生身の言葉を持たないものになにを語れるって言うんだ、本物の血の感触と温度を差し出せないものに?手段の先に成果などない、手段の先に成果などないし、それが行けるところは決まっている、それはお前自身を超えることがないからだ、お前の中で生まれ、お前の限界で死んでいくだけのものだ、なんのためにそれに手をつけたのか考えることだ、なんのためにそれが生まれたのか考えることだ、それが判れば数分で飛び越えることだって可能になるのさ、誰しもそんな興奮に飲み込まれてきたはずだ、それがどんなものか本当は理解しているのさ、発信も受信も飛び越えなくっちゃ意味がないぜ、今立ってる場所で自分を肯定してみせたところで、そんなもの他人にはヒッチハイカー程度の意味しか持たないさ、なんのためにそれに手をつけたのか考えることだ、なんのためにそれが生まれたのか…産まれた理由は還るべきところへ向かう、それに乗っかるために必要なのは詭弁なんかじゃないさ。






自由詩 産まれた理由は還るべきところへ向かう Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-02-11 12:13:15
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