歪んだコップ
服部 剛
僕は一日、働いて
妻は入院中の周を日がな看病した後
落ちあった、ファミリーレストランの、夕の食卓。
「今日は俺が運転するから、たまには飲みなよ」
「え、ほんとう?」
つい先ほどまではぐったり、目線を落としていたが
ころりと上機嫌に目を開けた妻の前には
やがて一杯の芋焼酎が
とん、と置かれた。
「あ…中のお酒が、傾いている」
「違うよ、それは、目の錯覚で…」
よく見れば
縁の歪んだコップの線が傾いており
焼酎の水平線は、平であった。
「僕等も、日々の場面を錯覚しているかもしれないね」
「ちょっと悩んでることも、違う角度から眺めたいわね」
とん、と置いた空のコップを手放して
湯だった妻はこくり、こくり、と舟を漕ぎ…
腕組む僕は、明日の課題を、考える。