水晶の砂時計
藤原絵理子


木立を抜けた風が
遠い町のざわめきを運んでくる

夕暮れの空が誘っている
踊りだす色の魔法で
ここちよく…あちらの世界に
ちくちくと心を刺す過ぎ去った風景

風に髪をなびかせながら
少年は自転車をこいでいるだろう
行くあてなどなくても
真っ白い夏雲が呼ぶかぎり

林越しに見るあたしの世界は
彼の目にはどう映るだろう
お利口な知恵で築きあげた
中途半端な塀の前で立ちすくんでいる

木立を抜けた風が
黄昏の香りを運んでくる

あたしはこの林を
通り抜けて行くことはできない
過去の方角から少年が呼びかけても
もうあたしは戻れない 

町のざわめきはやがて
フィルターを通ったように静まる
残った通奏低音を満たすのは
折れた翼を捜す人の嘆き

木立を抜けた水晶の風に
砂時計の落ちる音が聞こえる


自由詩 水晶の砂時計 Copyright 藤原絵理子 2014-02-08 22:14:36
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