牙のある天使 〔物語詩〕
ハァモニィベル
牙のある天使が夕焼けも見ないで
独り 膝を抱えて座っていた。
全身に受けた燃えるようなオレンヂのひかりも
全身を包むように前に広げた大きな羽根も
寂しさを覆いきれない そんな夕焼けの場所に
その天使は どう見ても天使のままで
独り 自分を抱えたまま座っていた
「わたしに近づいてはダメ!・・ 」
そう天使は言ったきり
僕を無視するように 潤んだ瞳を夕方の空へ向けて 独り
*
翌日、天使へのプレゼントを携えた僕は、もう一度あの夕焼けの場所に行ってみた
僕の一番大事な宝物を 手に取った天使の 逆立った髪の毛
悲痛な慟哭が一瞬にして沸き起り 天地を割る様な のたうつ苦しみ
い、一体 何が? 「これは夢ね お別れの夢ね 夢が止まらない・・」
そう泣き腫らし哭き崩れた時に、僕はその
可愛くて恐ろしい彼女の牙に 本当は 気づいたのだ
不幸が ただ平凡な不幸こそが 天使を落ち着かせ、僕を
やさしく見つめながら笑うときにはかならず 牙も笑った
天使の純粋なキスが僕に愛を教えたのは確かだ
キスの時だけ、ぼくらは愛だけになった
私だけを見て、あなたのすべてが欲しいの
ずっと一緒よ だって
貴方が大好物だから
もう僕は天使から離れられない
もう僕が天使に食べさせる身体の部位は僅かだ
もう僕は天使から離れられない
あともう少しで、僕は天使の体内で、天使とひとつになるのだから