靭やかに眠れ
ハァモニィベル

靭やかに眠れ


今夜お前はそっとひとりで月を眺めているだろう
暗すぎる闇が、光をくっきり冷酷に尖らせて お前は
恥に似た怒りを 虚しさのあかりに照らし出されてやしないか
どこかの家のオルガンの一音一音が銃弾のメロディーを奏でて
胸を蜂の巣に叩きのめしてやしないか
今夜俺のこの両手が
お前のその眼とそして耳をしっかり塞いでやれなくてすまない
お前を強く抱きしめたまま俺の背中が盾になってやれなくてすまない
お前が、今見上げたその空は
いつもこの俺がじっとひとりで見つめてる空だ
こんな夜にかぎって
まだ見ぬ透き通ったお前が頭に指をあてがって、何ひとつ答えをくれぬ部屋の中に
突き刺さった孤独の破片を吐き散らしては
砕け散った氷心の欠片と一緒に掃き集めている。 その
パジャマの袖からのびる寒々と凍えた手を
暖かく握ってやれる日はいつ来るのか
空へと必死に伸ばして何も掴めない手は いつも
握り込んだ心苦でベトベトに行詰っている
ならば
全部捨ててしまえ いっそ そして
眠れ しなやかに 化粧鏡の前で
涙の痕を乾かしながら
生きてゆく傷みを絶望の布団にくるんだそのままで
俺が傍へ駆けつけるまで 俺達ふたりが出逢える時まで
どんなに花びらが苦くてもかまわない
さもなくばきっと
硬く凍りついて眠るお前のことを化粧鏡がジィと見ている
さもなくばずっと
お前が籠った 棘だらけの不信の殻を俺は抱きしめたまま離さない
さもなくばやっと
しなやかな眠りの中で朝の門が開く鍵の音を聞き
飛び込んだ俺と入れ替えに
ぞっとする夜が慌てて出ていくうしろ姿をお前とふたりで蹴りとばそう
救いなき世界を朝の雨が 何%か洗い流すその優しさの奇跡に便乗して
正体こそ「現在」でしかない「過去と未来」って奴を思い切り漱ぎ流せば
アルカイックな笑いの 角質さえも洗顔し、やわらかく包みこむタオルにさっぱりとした
お前がはじめて魅せる真の笑顔を、俺は何の形容詞も付けずにぜんぶ感じ取りたい




自由詩  靭やかに眠れ Copyright ハァモニィベル 2014-02-06 02:02:14
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