ぬくい
るるりら

ぬかったわ
ふるぼこではないか
ぼっこぼこではないか
荒廃した この さもしい自分は
一体どうしたら いいんだ。


いやまて これは
文字の羅列をなぞる指先



田田田田
回回回回
田田田田
田田田田
回回回回
田田田田



家も仕事をうしなった 私に 苦労人のお爺さんが
おむすびをくれた そのとき この紙を わたされたのだ。

なんでも
この集合体で ひとつの文字だという。
まるで、田の神のようでもある。
そして、
どうでもいいが  この おむすびの うんまいことうんまいこと


食べてないということは
こんなに うんまいものなのか ここのかとうか


田田田田
回回回回
田田田田
田田田田
回回回回
田田田田




お爺さんの畑仕事を手伝うなら
家においてくれるというので もう二週間も
ここに おいてもらっている
お爺さんは クイズが解けるまでは ここを出て行くなという
行くところがないので 解こうとしていない。

ここに辿りついたころは雪の降る日もあったが
いまは 梅の花が いい匂いだ。 このままでよいのではないか。

田田田田
回回回回
田田田田
田田田田
回回回回
田田田田



気候がよくなってきたので、お爺さんは水田に水を引きたいという
「ところで あのクイズの答えは解ったか」と聞かれた。
わたしは 黙ったまま お爺さんについてゆく。
水田の周りの側溝が 階段のような形状になっている。
田んぼを 回っていると あのクイズの形が頭の中をなんどもよぎる。

お爺さんが 水門を開く前に 水の温度を確かめてから、
触れろという。――“ぬくい”

水路に温んだ水が あふれ
次第に水田にも 水が 満々と張られてゆく
棚田の水を雲が流れる。そして、あの文字に それらは似ている。



田田田田
回回回回
田田田田
田田田田
回回回回
田田田田


田の周りの水路は階段状に なっており、
魚が水の階段をのぼり 田を巡る。
台風の日には 水が あふれ
行方不明者が出たときは、村人たちは少女は魚になつたのだと 慰めあい、
私は 村人の弔いの日にも クイズの答えを探す。




ある日、おんなの人が突然
わたしを訪ねてきた。 そのクイズの答えは 雷の音だと
おんなは しずかに言った。この字は 雷の音を示しているのだと おんなは言う。
「わたしは 雷の日に死んだのですが、
いっしょに暮さないですか?」と おんなは言う。
「雷の音だと お爺さんにはなせば それだけで あなたは自由です。」



「自由に死んでも いいんですよ。」


おんなの手は 温くて、けれど 次第に 冷たくなる。
ついには 凍る。あまりのつめたさに手をひっこめると
おんなは かなしげな顔をして睨んだ。
雷が沸き起こる。霧があたりを包む。

逃げた。走った。田も、畑も、走った。
慌てた。空気が振動している、こ これは「!!――雷だ!/雷の音!」
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気が付くと





お爺さんの住まいのあった場所に 家は無く。
そのあたり いっぱいに 蓮華の花が咲いていた。


自由詩 ぬくい Copyright るるりら 2014-02-05 14:39:32
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