墓と骨
イナエ

父のコツは先祖代々の墓には入れない
同じ仏教でも宗旨が違うから

そんなことを言ってきたのは
父の後を継いだ弟
新たに入った宗旨に則って 
その寺の経営する墓地に
墓を買ったという

海の見える高台の墓地公園で
周りは桜に囲まれ
春には一族集まって
花見の宴で父の慰霊もわるくないと
実際この墓地では
あちこちの宴の輪が賑やかだという

 ぼくが小学生のころは
 雨の夜人魂が出るという噂の古い土葬墓地
 集落のはずれに虫食いトウコガネモチの
 生け垣に隠れてチロチロ見える朽ちた棒っ杭
 その下に先祖の人骨が埋まっていた

 昭和五〇年代になって村人たちは
 火葬に適した明るい墓地に作り替えた
 父も村人の勧めに従い
 新しく先祖代々の墓を立てた
 入れた骨は 見も知らぬ先祖と
 名字の違う祖母だけという

自分の建てた墓に父は入らない
捨てられた先祖代々の墓
家を捨て 宗教さえ不定のぼくは
入る気などないのだけれど…



自由詩 墓と骨 Copyright イナエ 2014-02-04 17:02:01
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