散歩
和田カマリ

濡れた暗闇を放射する
硬くて厚い椿の葉群
静かな時間になって
森の奥へと僕を誘う

ポトリポトリ
夜の壁から剥がれる様に
甘い紅白の花が落ちる
落ち続けて
踏まれ続けた花は
乱れる

やがて椿の隧道は
空を被う竹篭となり
私の散歩道は
少し明るくなった

竹の花が咲いていなければいいと
僕は恐れながら歩いた
何かが終わる前兆だと
人に聞いた事がある

程無くして
両手で泳ぐように
竹の隙間をこじ開け
脇道に逸れて見ると
明るい曇り空の下
そこには松林があった

僕の背丈ほどの松が
ぎっしり育っていた
それより大きいものは
あまりなかった

あのような松の木を
クリスマスツリーにしたことがある

もみの木を頼んだのに
おばあちゃんが
松の木を切って来た

幼かった僕は泣いた
あの頃は今より
色々な事に対して
こだわりがあったから

セピア色の写真があった
松の木のクリスマスツリーを前に
母と僕がとんがり帽子をかぶり
クラッカーを鳴らしている所の

だけど
あの写真はいったい誰が撮ったのだろう

おばあちゃんは機械音痴だったから
多分違う

じゃあ誰が

何もかも無くなってしまう
何もかも解からなくなってしまう

岩盤に腰掛けた僕は
岩のぬくもりを感じた






自由詩 散歩 Copyright 和田カマリ 2014-02-03 18:05:54
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