I温泉郷
葉leaf




I温泉郷へ車で向かった。I温泉郷はF県北部に位置する伝統のある温泉郷である。I温泉郷へ向かう途中のトンネルを抜けてしばらく過ぎると、先ほど通過したのと同じ名前の蕎麦屋があった。おかしなこともあるものだと思いさらに道路を進んでいくと、いつの間にかもときた国道へと戻ってしまった。そこで私は気づいた。トンネルの出口を抜けるとトンネルの入り口から反対車線へ戻ってしまうのだと。トンネルの出口はそのまま逆方向に入り口に戻ってしまうのだ。だが、I温泉郷に行くにはそのトンネルを抜けるしか道はない。

I温泉郷へ車で向かった。I温泉郷はF県北部に位置する伝統のある温泉郷である。I温泉郷へ向かう途中のトンネルを抜けてしばらく過ぎると、交差点があり道路標識の板が見えた。右方に向かうと「未来」、左方へ向かうと「過去」、直進すると「現在」とのことだった。私は迷った。過去へ向かうと若返るのか、それとも一層歳をとるのか。現在へ向かうと時間の流れが停止してしまうのか、それとも現在は常々更新されていくのか。未来へ向かうと一気に数年分を跳ばしてしまうのか、それとも穏当に現在から連続する未来が続いていくのか。とりあえず「現在」に向かって直進した。すると山道を登っていく道になり、右折や左折を繰り返し山を下る段になると信号が赤になった。横断歩道を渡っていく男がいて、どこかで見たことがあると思ったら私自身だった。途端に私は横断歩道を渡っていて、左を見ると私が車に乗って停止していた。私はそのまま町内会の集まりに向かった。いつも通りの年寄りたちのメンバーで、酒を酌み交わしながら新しいゴミ捨て場について意見交換をした。私はそのままI温泉郷にある自宅に帰り、妻と共にテレビを見て、その後入浴し就寝した。

I温泉郷へ車で向かった。I温泉郷はF県北部に位置する伝統のある温泉郷である。I温泉郷へ向かう途中のトンネルを抜けてしばらく過ぎると、古びた小さな観光案内所があり、中には中年のおばさんがいた。初めてくる場所なのでどこに行ったらよいのか聞こうと思って、私は案内所の駐車場に停車し、案内所の扉を開けた。中に入ってみると、それは案内所どころではなく、I温泉郷のすべてだったのだ。内側は広大になっており、おばさんは沢山の入浴場を地図を使って紹介してくれた。私はI温泉郷マップを手に携えて、とりあえず価格の穏当なところを5か所くらい梯子した。タイル張りで狭いところ、檜風呂で広いところ、下に砂利が敷いてあったり、露天風呂だったり、案内所の中にはたくさんの温泉があり、沢山の入浴客でにぎわっていた。案内所のおばさんは毎回私と一緒に風呂に入り、温泉ごとに体つきと顔が若返っていった。私が案内所を去るころには、高校生くらいの若くて美しい姿で見送ってくれた。

I温泉郷へ車で向かった。I温泉郷はF県北部に位置する伝統のある温泉郷である。I温泉郷へ向かう途中のトンネルを抜けてしばらく過ぎると、急に人々の集団に道を阻まれた。私は危険なので停車し、様子をうかがった。押しかけてきた人々は、人種も性別も身なりもてんでバラバラであり、この人たちを結びつけているものはいったいなんなのだろうと思った。白人の老人が何かを叫んでいる。中国人の若者がガムをかんでこちらをにらんでいる。黒人の太った女性がどっしりと構えている。私は日本人らしい老婆を見出し、話しかけてみた。「ここに来る途中にあった進入禁止の標識を見なかったのかい。柵があって入れなくなっていたはずだがねえ。」老婆はそう言った。ところが標識も柵もなかったのだ。「ここに入った以上二度と戻れないよ。この村にはたくさん秘密があるんだ。」私は人々に連行されて、村の長の前に突き出された。「この村の存在をどうやって知ったんだ」長は私に問い詰めた。確かに、I温泉郷は実は私が秘密文書からその存在を推知した場所だった。現在の地図には載っていないし、政府によってごく自然に存在が抹消された場所だった。ここでは人間の品種改良が行われているらしいということを私は知った。「お前は何か特殊な能力をもっているか? でなければこの場で殺す。」長は私にそう告げた。幸い私は知能指数が200だったので、一命を取り留めた。そして、毎晩のように色んな女性と交わっている。


自由詩 I温泉郷 Copyright 葉leaf 2014-02-02 10:28:03
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