同伴者
由木名緒美


目は開くが光が差さない
肩は動くが負うべき荷がない
節くれ立つ指はしなるが絡めるべき手がない

そのように漠々と日々は吹き過ぎ
引きずった片足は轍を伸ばす
山頂を目指す人々は皆
片足を引きずっているので
斜めに傾いた影が
機織の拍子で前後に揺れ進む

麓から見た山岳は
切り立った崖が両端に張り出し
薄笑いを浮かべているように見えるが
辿り着いてみれば そこはやわらかな陽光差す日溜まりの
可憐な花々が散らばる秘境であった

腰をおろし、張り詰めた片足の筋肉を弛める
ここに両足を持つ者はいないので
皆思い思いにいびつな片足を投げ出している

干乾びた喉に残雪の塊を押し込むと
上気した体が溶けていく

重荷を負うているすべての人
来なさい わたしの元に
休ませてあげる そのあなたを

固い岩肌にぽつぽつと雨垂れが染みをつくる
裸の両肩に荷はないが
背にのしかかるこの寂莫は

見開いた瞳孔に刻まれる印
山の頂に潜む問い掛けの起源
雲間から立上る虹が下界を映す

この道行きの先に与えられるものは
これまでも、この先も
苦痛の代価で支払われるのだろう
動かぬ片足はやがて萎えていき
へたり込んだぬかるみがついに求められる場所ならば

その時、同伴者は私の前に姿を表わす
見るべき威厳も、美しさもなく、
ありのままで在るという至極において
亡霊のような彼の愛は
目映い暁光となり私の眸を潤おすのだろう

萎えた足が無数に転がる山頂の、その傍らで
祝福するように花々が咲き誇っている


自由詩 同伴者 Copyright 由木名緒美 2014-02-01 22:54:59
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