挽歌
……とある蛙

夕陽のあたる湊町
古い煉瓦の倉庫街
漂うあの歌 あの旋律は
港の悲しいエレジーで
昔の俺(おい)らの子守歌

港近くの襤褸アパートで
親父も知らずに育った俺(おい)ら
酒場の女のお袋は
酒に酔っては男と懇ろ
おいらの横でやりたい放題

お袋の相手の荒くれは
港港に情婦(おんな)をこさえ
口笛吹いては逢い引きし、
事が終われば消えて行く

なかには船が難破して
帰って来られぬ者もいる
それでも片端で帰った者は
酒場で一人飲んだくれ

どうにもこうにも
堂々巡り
 昔語りのろくでなし
酒場でだれも相手せず、
酔って野良犬蹴飛ばして
自分がそのまま噛み付かれ
慌てて海に飛び込んで
溺れてそのままお陀仏よ

土左衛門になったけど
その土左衛門が父親と
後で母に囁かれ
少しの涙もこぼれなかった

そのまま俺も船乗りで
おもしろくも無いコンテナ船
いつもの悲しいエレジーは
今日も港に流れてる。
誰が吹くのかハーモニカ
その旋律は変わらない。

結局自分も不様な生きざま
汚い酒場で飲んだくれ
ブスな女を争って
いきがかり上、ナイフだし、
刺したつもりが腹刺され
仰向けで見る古臭い
酒場の汚い電球が
俺の最後の風景で
次第に霞んで消えて行く
意識の遠くにあのエレジーが


自由詩 挽歌 Copyright ……とある蛙 2014-02-01 17:07:30
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