没落
深水遊脚

 洋酒に囲まれ 馴染みの客にその日のお酒を出す まだ来てくれるだけでも嬉しくて 好きなもの嫌いなもの こだわりと痛点 あれこれ自然に入ってきて その日のお酒というのも 彼が欲したものと私が差し出したものがずれることはない と信じることは ここに立ち続けるために必要な思念

 ふと お味噌汁がいいと呟く パックのなめこと 大根とおろし金 塩蔵ワカメ これらのものは常にある レタス ローストビーフとチーズの切れ端 それらも始末するけれど それらをまかないにしても あまり心が休まらない 同僚の受けも悪い 鰹節とカンナを勝手に持ち込んでいた者もいた 金にだらしがないのを見抜いて 適当な理由をつけてクビにした男だった 実家で正月に食べきれなくなった餅を 持ち込んでいた者もいた トースターで簡単に焼けて 毎日の返杯で荒れた胃袋には パンよりも餅は優しかった

 店からみて裏手にあるコンビニに 野菜と果物がたくさん並んでいるのをみて 同じように働く誰かの胸焼けに同情する 古びた変電所跡が蒸留所にみえて 馴染みの客が語っていた蘊蓄を思い出す 学びたての頃は 正しく伝えようとしていた ありのまま夢のままに 受け止めることも大事だと気づいたのはごく最近のこと 飲まずとも記憶だけで美酒に酔いながら 変電所を眺める 記憶のよい部分だけをカクテルにして


自由詩 没落 Copyright 深水遊脚 2014-02-01 13:06:47
notebook Home 戻る