都会のタンポポ
AB(なかほど)


 誰も彼もが遥かな野望を抱いて
 自分の道を進む訳でもないのに
 「最終講義」をされる先生方はみな

 立派な「哲学」を持ち

 その専門分野に
 どんな斬新な風を吹き込み
 どんな魅力的な成果を残したのか
 朗々とおっしゃる
 日頃の講義からは想像もつかない
 そして
 全ての人に感謝を込めて
 好きな道、決めた道を歩んでこれた
 その素晴らしさを伝えて
 最終講義は終わる


 私もそろそろ
 最終講義のシナリオを考える頃だろうか
 地方の大学の助手に呼ばれて
 もう三十年以上も農芸を教えてきて
 おかげさまであと数年で定年となる

 泥縄状態で
 てんやわんやの毎日の仕事を片付けていたら
 いつのまにか教授なんて呼ばれているが
 「哲学」といえるものなんぞ
 あったのか
       と
 振り返ることさえも億劫である



 「さてさて

  私がこの農芸化学の道を歩いてこれたのは
  花屋のエミちゃんが好きだったからです。」


    正直にゃ 語れないな


 「それはまるでタンポポのような、」



  


自由詩 都会のタンポポ Copyright AB(なかほど) 2003-11-02 22:02:36
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