ミクロの脅威 マクロの奇跡
夏美かをる

次女の髪を梳いた櫛に付着していた
薄茶のフケのようなもの
それが動いた!
二ミリにも満たない生物が
私に与えた衝撃
一体どこでうつされたのか?
GHQが散布した白い粉によって
やつらは絶滅したのではなかったのか?

長女の咳がなかなか治らない
「手をちゃんと洗わなかったでしょ。
 だから風邪の素が体に入っちゃったんだよ」
といじわるを言ってみる
風邪ウイルスの大きさは
一ミリの十万分の一、すなわち
人間が地球の大きさだとすると
ウイルスはネズミ大とのことだ
手を洗ったくらいでは侵入を防ぐのは難しい

父の命を奪ったがん細胞
そいつは 直径一センチの腫瘍組織の中に
十億個もうじゃうじゃいるらしい
おぞましい勢いで日夜増殖を続け
父の内臓を次々に喰い尽くしていった
その不気味な生命体は
一体どこから生まれたのか?
何故父の体に宿らないといけなかったのか?

娘達のためにおにぎりを握るこの手にも
しぶとく残っているであろう細菌の数は
数千なのか? 数万なのか?
彼女達の免疫システムに頼るしかないとは
何と無力なことか!
宇宙に色々なものを飛ばす時代だというのに

ある日 理由も意味もなく生まれた
たくましい一匹のネズミによって
滅ぼされてしまうかもしれない地球
子宮口の外で待ち構えている現実は
淀んだミクロ空間から這い出てきた
無量大数の脅威に 四六時中晒されている
おぼつかない日常の連続
そこには答えなど何一つ用意されていない

それでも赤ん坊は生まれてくる
全身を真っ赤にして叫びながら
生まれてくる、ただ生まれてくるのだ
無防備な姿で 何もお構いなしに―
一秒間に二人とも四人とも言われている
その勢いこそ、
脈動するマクロ世界をまっすぐに貫く
たった一つの輝く奇跡


自由詩 ミクロの脅威 マクロの奇跡 Copyright 夏美かをる 2014-01-31 04:47:37
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