【 どこへ いった? 】
泡沫恋歌
そいつは道の真ん中に転がっていた
雨の日だった
合羽を着て自転車を漕いでいたので
私の視界は悪い
遠くから黒い物体が見えた時
壊れた黒い雨傘だと思った
もっと近づくと
黒い長靴に見えた
側を通り過ぎたら
真っ黒なカラスの死体だと分かった時
「ギャッ!」
思わず声をあげた
まさか
歩道の真ん中でカラスが死んでいるなんて
思いもしなかった
そういえば
あれだけ空を飛びまわっているカラスなのに……
死んだカラスを見たことがない
どこへ いった?
*
うちの近所に「ヒメちゃん」と呼ばれる野良猫がいた
キレイな三毛猫だったけれど
用心深い性格なので飼い主がつかなかった
町内の猫おばさんから餌を貰っていた
そのヒメちゃんが病気になった
餌も食べず ガリガリに痩せてきた
このままでは死んでしまうと
獣医に連れて行こうとしたが
逃げ回って捕まらない
そうこうした ある日
偶然 私はヒメちゃんを見た
家と家との間の狭い路地へ
ヨロヨロしながら入っていく姿だった
「ヒメちゃん!」
呼んだら 一瞬立ち止まったが
また路地の奥へ奥へと入っていったのだ
その日を最後にヒメちゃんの姿は消えた
衰弱していたから
どこかで死んでしまっているだろうが
ヒメちゃんの亡骸は……
どこへ いった?
*
平和なこの日本でも
年間一万人近くの人間が
行方不明になっている
この社会情勢で人ひとり消えたぐらい
誰も気づかないってことか
就学年齢になっても所在の分からない
児童がたくさんいるらしい
出生証明書があるのに
死体もなく 痕跡も残さず消えた
神隠しにあったか
あの児童たちはいったい
どこへ いった?
*
何も見えない
私は虚空へ目を凝らす
白い霧の国を彷徨っているのか
忽然と消えた声なき者たちは
どこへ いった?
2014/01/29
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「詩人サークル 群青」