ホムンクルス
大覚アキラ

 キャンディグリーンのミニカー
 メイド・イン・ベルギーのミント菓子
 ずいぶん磨り減った消しゴム
 片方だけの水色の手袋

そういう
何の価値もないものを
何の価値もないものだけをかき集めて
コンビニの袋にでも詰め込んで
ぼくは旅に出る

もしもこのまま
ぼくが帰らなかったとしても
ぜったいに
ぜったいに
ぜったいに
ぼくのことを探したりしないでほしい

一晩だけぼくのことを思い出して泣き明かして
そしてそれっきり
ぼくのことは何もかも忘れてくれ

 ぼくの
 決して低くはないけれど少しこもった声
 人をバカにしたような片頬だけの笑み
 眠そうなゆっくりとした瞬き
 カラーコンタクトみたいな薄茶色の瞳

そういうものすべて
きれいさっぱり忘れてくれ

いつの日か
きみが
ぼくのことを忘れてしまった
という記憶さえ忘れてしまって
ぼくの名前を聞いても
何一つ思い出すものがなくなってしまった頃

 真冬の海岸で拾った小さな貝殻
 居酒屋の婆さんがくれた飴玉の包み紙
 破れてしまった片方だけの水色の手袋

そんな
ゴミみたいなものばかり
きみに送りつけるよ

ゴミみたいだけれど
ささやかなヒント
ゴミみたいだけれど
記憶の発火点

きみの
頭の中に
ちいさな
とてもちいさな
線香花火の最後の瞬間のような
光が走る

さあ
クイズだ

 破れてしまった片方だけの水色の手袋
 
 居酒屋の婆さんがくれた飴玉の包み紙

 真冬の海岸で拾った小さな貝殻

 カラーコンタクトみたいな薄茶色の瞳

 眠そうなゆっくりとした瞬き

 人をバカにしたような片頬だけの笑み

 決して低くはないけれど少しこもった声

 片方だけの水色の手袋

 ずいぶん磨り減った消しゴム

 メイド・イン・ベルギーのミント菓子

 キャンディグリーンのミニカー

部分の総和は全体ではないなんて
真っ赤な嘘だ
ジグソーパズルのピースのように
(なんて陳腐な喩えだ)
丁寧に部分を組み立てていくのだ

呪文を唱えよ

 すべての
 ものごとには
 意味がある

 すべての
 ものごとには
 価値がある

 意味のないものには
 意味がない
 という意味がある

 価値のないものには
 価値がない
 という価値がある

ぼく

完成したら



ぼく

誕生したら
きみが名前をつけてくれ

おめでとう

ありがとう


自由詩 ホムンクルス Copyright 大覚アキラ 2005-01-15 00:57:02
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